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人はトラウマから、どうやって生き延びる?−−−アノヒトの読書遍歴:大野更紗さん(前編)

『その後の不自由−「嵐」のあとを生きる人たち』を手にとり「このシリーズの本は新刊が出ると買うのが習慣になっています」と語る大野さん

 自身の闘病体験を綴ったエッセイ『困ってるひと』が、20万部を突破するベストセラーとなった作家・大野更紗さん。書くことはもちろん、幼いころから本の虫だったそう。大野さんのお母さんは、積極的に児童文学を買い与えてくれるタイプだったそうで、子どもの頃から身の回りには本が溢れていたのだとか。

 私の実家は田舎でしたので、楽しみといえば読書くらいで。一番近くのコンビニでも家から9kmとか10kmくらい遠くにあって、どこへ行くにもクルマを使わないといけないような場所でしたから。母が惜しみなく買い与えてくれるというのもあって、本は空気とか水みたいな、常にそこにある存在でしたね。

――小さなころから本を読んでいると読み書きが得意なったり、感受性が強くなったりするといいますが、大野さんはどんな幼少期を過ごされたんですか?

 幼稚園に入ったばかりで、自分の名前を書くというときに、私だけ漢字で名前を書けたんですよね。3歳、4歳くらいの子どもが集まっているので、当然周りの子は平仮名で自分の名前を書くわけです。そのとき、「私ってアタマいい」じゃなくて「すごい寂しいな......」と感じたことは記憶に残ってますね。「私は街に住んでる子と違うんだ。街の子は遊びに行くところがいっぱいある」と。「違う」「寂しい」っていうのが、幼稚園で街の子と初めて接触して思ったことですね。私は山の子だから、本を読んだり字を書くことくらいしか、やることがないっていう......。

――周りと違うところがあるって、子どもにとっては結構ストレスなってしまうことがありますよね。大人になった今ではどのような本を読まれているんですか? 今回お持ちになられている本もテーマが難しい本のようですが。

 まずご紹介したいのは、『その後の不自由−「嵐」のあとを生きる人たち』です。医学書院の「ケアをひらく」っていうシリーズの一冊です。何らかの依存症になってしまった人やDVの被害者の人たちの支援をするグループの方が書いた本です。

−−もともと依存症などに関心があって手に取ったのでしょうか?

 正直に言うと、あまり依存症とかには興味がなかったんです。だけど、この「ケアをひらく」シリーズは白石さんっていう名物編集者が作っている非常に不思議なシリーズで、このシリーズの本は新刊が出ると買うのが習慣になっています。それで手に取りました。タイトルに『その後の不自由』とありますが、災害や事件とかの大きな出来事って、大抵は原因が何なのかとか、その瞬間の短期間の描写しか取り上げられませんよね。でも、この本の場合、トラウマになるような大きい暴力や事件が人間に降りかかった後、当事者たちは一体どうやって苦しみ、そしてやっとこさ生き延びるのかっていうのが、今までにないやり方で描かれていると思います。

−−トラウマって、当事者しかわからない部分が大きくて、なかなか周囲に理解してもらえないという悩みを抱えている人が多いと聞きます。

 そう。たとえば依存症の状態にある人って、健康な人と付き合うと「すごく寂しい」って感じるらしいんです。どういうことかというと、依存症の人は自分とピッタリ重なりあってくれる人が欲しい。男女の関係のようなものだけじゃなくて、親子でも、同性同士でも、友達でも、「自分以外は見ないでほしい」「自分以外と話さないでほしい」という気持ちが出てくるんです。でも、健康な人たちは、そこまでの関係になってくれないわけですよ。なので、依存症の人は暴れてしまったりする。そこのところが当事者目線で書いてあるので、健康な人が読むと「そうか、そういう構造なのか」と納得できる。逆に、ちょっと依存症みたいな気持ちになってしまって悩んでいる人にとっても、「あ、自分はこういう構造の中にいるんだ」とスッキリできる本だと思います。

 後編では、大野さんの好きなドキュメンタリー映画と、その監督について書かれた本を紹介します!

<プロフィール>
大野更紗 おおの・さらさ/1984年生まれ。作家。大学院に進学した2008年、自己免疫疾患系の難病を発症。その闘病体験を綴った『困ってるひと』が20万部を超えるベストセラーに。同書で、第5回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。2014年7月に新刊『シャバはつらいよ』を上梓した。

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