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「ドグラ・マグラみたいな東京」という歌詞は、あの難解小説から生まれた ―――アノヒトの読書遍歴:平井拓郎さん(後編)
4月23日には7曲入りミニアルバム『毎日弾こうテレキャスターagain』を発売した4人組ロックバンドQOOLAND(クーランド)。そんな同バンドで、ギターボーカルを務める平井拓郎さんは、本をモチーフに歌詞を書くことが多いそうです。前編では新譜にも収録されている「白夜行」についてお聞きしましたが、後編でもまずは本がモチーフになった曲について聞きました。
東野さんの『白夜行』以外にも新譜には小説をモチーフにした本がありまして、夢野久作さんの『ドグラ・マグラ』という小説なんですが、これもタイトルごといただいています。中学生になって純文学を読み始めてから、昔の文豪の作品も読むようになったんです。この本は記憶喪失中の精神病患者と思われる若者が主人公で、舞台も大正時代の病院の独房と突飛。かなり難解な本だと思うのですが、ちょっと無理して読んでみようとチャレンジのつもりで手に取りました。
――実際に読んでみていかがでした?
いろんな評論家の方々からも「奇書」と言われている本だけに、やはり難しい内容でしたね。解釈が何通りも出てきてしまって、何が真実なのかは未だにわかりません。なので、『ドグラ・マグラ』のことを話すとなると、正直上手く言葉にできない部分がまだ多いですね。もうちょっと大人になってから読むとまた違うのかもしれませんが...。
――それでも曲のタイトルに使われたのはなぜですか?
実は曲の中でも、理解するのが難しいということを歌っているんです。『ドグラ・マグラ』を頑張って読んだけど、やっぱり分からない部分がたくさんあるし、時間を置いて読むとまた分からない部分が見つかる。それを東京に今いる自分と重ねて、「ドグラ・マグラみたいな東京」という歌詞が出来上がりました。関西から東京に来て、これからも挑戦し続けていくけど、それでも目の前には分からないことだらけ。東京っていう場所を表現するのにそれが一番適切だったんですよ。
――『白夜行』も『ドグラ・マグラ』もストーリーが展開していくとともに秘密が解き明かされていく作品ですが、謎がある作品を読むことが多いですか?
東野さんも探偵小説が多いですし、金田一耕助さんや、コナン・ドイルの『シャーロックホームズ』シリーズとか、読むことは多いかもしれません。クーランドには「毛利探偵事務所」という曲があるんですが、これも『名探偵コナン』からインスピレーションを受けたものなので...。探偵漫画が流行りだした時、ちょうど6歳、7歳だった世代なので、知らぬ間に影響を受けているのかもしれません。僕ら、探偵世代なんですよ。
――では最後に、ミュージシャン平井拓郎おすすめの本を1冊教えてください!
少し古い本になりますが、『前略、テレキャスター様』という本ですね。エレキギターには様々な種類があるのですが、なかでもテレキャスターは世界初のボディの中が空洞になっていないモデルで、この本ではそのテレキャスターの魅力について、とにかく深く掘り下げています。部品や木材についても書かれているんですが、日本を代表するテレキャスター使いの音楽家の皆さんがインタビューを受けていて、そこから学ぶことは多かったです。
――とくに印象に残ったのはどなたのインタビューですか?
ZAZEN BOYSというバンドの向井秀徳さんが「テレキャスターは自分の感性と直結している」って語られていて、僕も同じように考えていたので心に残りましたね。もし違うギターを使っていたら、向井さんの音楽は違ったものになっていたと思います。僕もテレキャスター1本で音楽をやっているので、この言葉には強く共感しました。楽曲はもちろんですが、楽器の素晴らしさも音楽を通して伝えられるよう、日々精進していきたいです!
純文学や探偵作品から影響を受け、本は曲を作るうえでの重要な要素だと語る平井さん。平井さんがこれから読む本が、今後の作品にどのような影響を与えていくのか本当に楽しみです!
<プロフィール>
平井拓郎
ひらい・たくろう/1987年生まれ。ミュージシャン。2011年に東京で結成の4人組ロックバンド・QOOLAND(クーランド)のギターボーカル、作詞作曲担当。同バンドは音楽情報誌「ロッキング・オン」のライブコンテンスト「RO69JACK2013」でグランプリを受賞。4月23日には7曲入りミニアルバム『毎日弾こうテレキャスターagain』を発売した。