神にケンカを売る「鳥人間」たちの情熱青春物語

トリガール!
『トリガール!』
中村 航
角川マガジンズ(角川グループパブリッシング)
1,512円(税込)
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 「風を......風を拾うんだ......」

 「回れっ! 回らんかぁああ!」

 気球、ヘリコプター、飛行機と現代では、空を飛ぶ手段はさまざまあります。ただ、大空を飛ぶ鳥のように"自らの力"で空を飛びたいという思いは、誰しも1度は頭によぎったことがあるはず。そんな思いを本気で実現させようとしている人々が集うのが、「鳥人間コンテスト」。

 今年も8月27日に全国ネットで放送されますが、昨年度の大会は、インターネットを中心にこれまで以上の大きな話題を呼びました。その理由は「東北大学 Windnauts」のパイロット・中村拓磨氏の存在。進路を大きく外れスタート地点に戻る機体を必死に立て直し、優勝したことに加え、苦悶の表情を浮かべる彼が叫ぶ、熱い"名言"でした。冒頭の言葉はそのひとつですが、彼の戦う姿と名言が反響を生んだのです。

 そして、ロングセラー『100回泣くこと』の筆者・中村航氏も、触発された一人でした。中村航氏はその映像を観てから小説『トリガール!』を書き上げたのです。作品の主人公は、苗字に"鳥"がつくからというだけで、鳥人間コンテストに参加するサークル「T.S.L.」に入部"させられた"女子大生・鳥山ゆきな。鳥人間コンテストなんて縁もゆかりもない彼女が、夢見ていたラブリーでスイートな学生生活も単位も捨て、ひたすら飛ぶために全力を注ぐようになります。

 彼女が変わったのは、すべて周りの影響でした。深夜までプロペラ製作する同級生、400万円もの材料費を工面する先輩、そしてケガを負い飛ぶことができなくなってしまったパイロットの先輩。1年に1度しかない本番に向けて、それぞれ動くチームの仲間の姿や想いに打たれ、彼女は「みんなの夢を背負って、わたしが飛ぶ」ことを自覚したのです。

 作中でも言われていますが、人間が重力に逆らうことは「神様に逆らう行為」であり、いつか墜ちるとわかっています。それでも「もっと、飛びたい!」と叫ぶ、みゆきの言葉は仲間たちの全員の言葉。本書に描かれる彼らの努力を見ているとそう思えてなりません。

 筆者・中村航氏が6年前から取材を重ね、ようやく形になった『トリガール!』。世の中に飛び立った本書は、中村拓磨氏たちが魅せた「鳥人間コンテスト」の情熱を伝えることでしょう。

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