サッカー界の「文武両道」が見せる、スポーツと学習に通じる「学ぶ」姿勢
- 『宮本恒靖 学ぶ人』
- 佐藤 俊
- 文藝春秋
- 1,296円(税込)
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第30回夏季オリンピック・ロンドン大会が終了しました。日本は、金メダルの数こそ目標数に届かなかったものの、過去最多の38個のメダルを獲得し、世界で戦える選手層の厚さを証明しました。
そんな今回のロンドンオリンピックで私たち日本人を大いに盛り上げてくれたのがサッカーでしょう。2011年女子W杯優勝の実績を引っさげ、初のオリンピック金メダル獲得を目指した"なでしこジャパン"の活躍、さらに男子サッカーU23代表も大躍進を遂げ、1968年メキシコ五輪以来44年ぶりのベスト4進出を果たしました。
近年、サッカー選手の関連書が数多く出版されており、なかでも日本代表にも名を連ねる長友佑都選手の著書『日本男児』や、同じく日本代表の長谷部誠選手の著書『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』はそれぞれベストセラーとなり、サッカーを知らない人にまで彼らの生き方、考え方は注目されるようになっています。
そうしたサッカー選手関連書のひとつで、昨年引退した元日本代表の宮本恒靖さんをテーマにした『宮本恒靖 学ぶ人』は、その名の通りサッカーというスポーツを通して宮本さんが学んだリーダー論、サッカー論などをまとめた一冊です。2002年日韓W杯決勝トーナメント進出、2004年アジア杯優勝、そして2006年ドイツW杯での惨敗と、躍進と挫折を日本代表チームのキャプテンとして体験。その彼が一貫して「学ぶ」姿勢を持ってサッカーに取り組んでいたことが、この著書を読むことで伝わってきます。
実はこの「学ぶ」姿勢は、サッカーだけでなく学校教育の学習=「学ぶ」でも発揮されていたようです。すでに日本ジュニアユース代表として頭角を現していた中学時代には、大阪府英語暗唱大会で優勝。ガンバ大阪にプロ契約する一方で同志社大学経済学部に進学、労働経済学のゼミに在籍していました。
スポーツと学習の関係については、こんなデータがあります。「高校生の子どもを持つ親のスポーツに対する意識調査」(Benesse研究開発センター調べ)では、親の進学希望段階が「高校まで」とする子どものスポーツ活動率は44.5%、「四年制大学・大学院まで」は52.4%と出ています。また、運動やスポーツを通じて子どもが成長していると実感できると「とても思う」と回答したのは、進学希望段階を「高校まで」とした親は32.8%、「四年制大学・大学院まで」とした親は41.3%でした。
ベネッセ高等教育研究所の松田事務局長は次のように分析します。
「スポーツをしている高校生とそうでない高校生では、スポーツをしている高校生の方が家庭学習活動率、教室学習活動率ともに高くなっています。また、母親から強い進学期待を受けている高校生の方がよりスポーツをしていて、かつ強い進学期待を持っている母親のほうが、スポーツ活動の効用に肯定的であることがわかります。
高校生の本分である学習活動と好きなスポーツを両立することは、限られた学習時間の中での計画性や集中力が求められるという点でよい相乗効果をもたらすと言えるかもしれません。その前提には母親のスポーツをすることへの理解、肯定的な見方があるということでしょう。
ちなみに、進研ゼミの調査でも難関大に合格した高校生のうち、79%が部活動に参加していたという結果がでています」
宮本さんの両親の働きかけが、彼の成長にどれだけ影響したかはわかりませんが、少なくとも宮本さんのように学習、スポーツを通じて「学ぶ」姿勢を持ち、目標に向かって取り組んだ大人の姿を見せることもまた「何もしていない」高校生を減らすきっかけになるのかもしれない。
ちなみに、宮本さんは現役引退後、日本人元プロサッカー選手初となるFIFAマスター(FIFAが運営するスポーツ学に関する大学院の修士課程)第13期生に合格。2012年9月に入学し、卒業後は欧州で引き続き指導者資格の取得を目指す予定で、「学ぶ人」は現在も進行形です。
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Benesse マナビジョン
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