不識庵の藤井まりさんに教わる からだと心にやさしい精進料理

葛びき雑煮。箸休めには、かぶの甘酢あえを。撮影:馬場敬子
約900年前の鎌倉時代から、仏教寺院で食されてきた精進料理。最近は、「からだと心にやさしいごはん」としても注目されています。新連載「不識(ふしき)の禅ごはん」では、精進料理研究家の藤井まりさんに、その心と料理を教えていただきます。

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あけましておめでとうございます。今月より毎月、精進料理を紹介いたします。藤井まりです。
「精進料理」と聞くと、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか? 「食材に厳しい制限があるお寺の質素な料理」でしょうか? もちろん、きらびやかな豪華料理ではありませんし、仏教の「殺生をしない」という教えから「逃げるもの」は使わずに植物性の食材だけでつくります。ねぎやにんにくのようなにおいの強いものも使いません。
けれども、基本となるのは、『典座教訓(てんぞきょうくん)』という本にある「喜心(きしん)・老心(ろうしん)大心(だいしん)」という教えです。「食べる人のことを考えて、嫌々ではなく喜びの心を持ちながら(喜心)、親が子を思うような心持ちで(老心)、平常心でつくる(大心)」ということですね。お寺では、厳しい修行に励む僧侶たちが食事に満足し、元気に過ごせるように典座(食事係)がこの三心で工夫を凝らしながら食事をつくります。
私は、家で子どもたちにごはんをつくりながら、「三心は、家庭でのごはんづくりにも通ずるもの。身近な食材を使った精進料理は、お寺のお総菜」と思うようになりました。旬の滋味あふれる食材はそれだけで十分にごちそうですが、おいしくいただく精進料理の工夫が、皆さんのごはんづくりの一助となればうれしいです。
今月は、お正月の「葛(くず)びき雑煮」を紹介します。お寺では年末にたくさんの餅をつき、新年にお雑煮をいただきます。また、関西のお寺では白みそのお雑煮、関東のお寺ではすましのお雑煮、とその土地の昔からの発酵食品の文化と結びついているのが特徴です。
今回は私が住む鎌倉で、昆布の精進だしに季節の根菜を合わせ、おろししょうがをのせて葛を引いた、からだを芯から温めるお椀(わん)です。しょうがの風味を楽しみながら皆さまの新年が、ポカポカと温かく始まりますように。合掌。
※葛びき雑煮のつくり方はテキストに掲載しています。
■『NHKきょうの料理ビギナーズ』2022年1月号より

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