豊島将之名人が誕生した日の将棋会館
観戦記者の後藤元気さんが将棋界のエピソードを綴る連載「渋谷系日誌」。今月号では、第77期名人戦第4局の2日目のことを振り返っています。
* * *
5月のとある日に、千駄ヶ谷の将棋会館に行ってきました。この日は第77期名人戦第4局の2日目が福岡県で行われており、大盤解説会でものぞいてみようと思ったのです。
七番勝負は挑戦者の豊島将之二冠が一気に3連勝。佐藤天彦名人はここで敗れると3期保持してきた虎の子の名人位を失うことになります。
勝敗は兵家の常といいますが、やはり負けられないという大きな勝負はあるはず。名人獲得の重圧がかかる豊島さん、そして追い込まれた天彦さんがどういう将棋を指すのか。
さらに言えば今回の名人戦の観戦記担当は第5局なので、第4局で終わると不肖わたくしの出番はなし。なしなしのプー太郎なのであります。
天彦さんが勝てばそれでよし。豊島さんが勝って七番勝負が終わるのなら、最大限に名人戦を楽しもう。観戦記を書きたい自分の気持ち、言わば骨を自分で拾うといったところです。まあ、最大限に楽しみたいなら福岡に行けよって話なのですが。
解説会を担当する渡辺明二冠は天彦さんの親友であり、この数週間後には豊島さんの持つ棋聖に挑戦する身。彼がどういうジャッジをしながら語っていくか、そういう面も今後に向けて興味深いと思いました。まあそういう心持ちで、入場料2千円也を握りしめて向かったわけです。
が、世の中そう甘くはなかった。1階の自動ドアが開いた瞬間に目に飛び込んできたのは、人、人、人。いま並んでいる方々の席もあるかどうかという混雑ぶりで、僕なんかが入る余地はなさそう。衰えぬ将棋人気を改めて実感させられました。
結局は2階の解説会を断念して3階の記者室でネット中継を見るという、ほぼ自宅にいるのと同じ状況になったわけですが、それでも胸ドキドキ心躍ることに変わりありません。(心優しい渡辺さんは休憩時間に何度か上がってきて、この将棋と関係ない世間話などをしていきました)
その後は別棋戦の対局を終えた木村一基九段、稲葉陽八段らと近くの店に移動して、携帯電話で戦況を確認しながらの観戦。豊島勝ちの報を目にした我々は、それぞれでしばし物思いにふけり、とりあえずビールをおかわりしたのでありました。
あとから合流した渡辺さんもいつもよりは口数が少なく、ちびちびと瓶ビール1本空にしたところで、なんとなくお開きに。いろいろと収穫があり、全体的にはよい一日でした。
※続きはテキストでお楽しみください。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年9月号より
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5月のとある日に、千駄ヶ谷の将棋会館に行ってきました。この日は第77期名人戦第4局の2日目が福岡県で行われており、大盤解説会でものぞいてみようと思ったのです。
七番勝負は挑戦者の豊島将之二冠が一気に3連勝。佐藤天彦名人はここで敗れると3期保持してきた虎の子の名人位を失うことになります。
勝敗は兵家の常といいますが、やはり負けられないという大きな勝負はあるはず。名人獲得の重圧がかかる豊島さん、そして追い込まれた天彦さんがどういう将棋を指すのか。
さらに言えば今回の名人戦の観戦記担当は第5局なので、第4局で終わると不肖わたくしの出番はなし。なしなしのプー太郎なのであります。
天彦さんが勝てばそれでよし。豊島さんが勝って七番勝負が終わるのなら、最大限に名人戦を楽しもう。観戦記を書きたい自分の気持ち、言わば骨を自分で拾うといったところです。まあ、最大限に楽しみたいなら福岡に行けよって話なのですが。
解説会を担当する渡辺明二冠は天彦さんの親友であり、この数週間後には豊島さんの持つ棋聖に挑戦する身。彼がどういうジャッジをしながら語っていくか、そういう面も今後に向けて興味深いと思いました。まあそういう心持ちで、入場料2千円也を握りしめて向かったわけです。
が、世の中そう甘くはなかった。1階の自動ドアが開いた瞬間に目に飛び込んできたのは、人、人、人。いま並んでいる方々の席もあるかどうかという混雑ぶりで、僕なんかが入る余地はなさそう。衰えぬ将棋人気を改めて実感させられました。
結局は2階の解説会を断念して3階の記者室でネット中継を見るという、ほぼ自宅にいるのと同じ状況になったわけですが、それでも胸ドキドキ心躍ることに変わりありません。(心優しい渡辺さんは休憩時間に何度か上がってきて、この将棋と関係ない世間話などをしていきました)
その後は別棋戦の対局を終えた木村一基九段、稲葉陽八段らと近くの店に移動して、携帯電話で戦況を確認しながらの観戦。豊島勝ちの報を目にした我々は、それぞれでしばし物思いにふけり、とりあえずビールをおかわりしたのでありました。
あとから合流した渡辺さんもいつもよりは口数が少なく、ちびちびと瓶ビール1本空にしたところで、なんとなくお開きに。いろいろと収穫があり、全体的にはよい一日でした。
※続きはテキストでお楽しみください。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年9月号より
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