山下達郎、松田聖子、サザン...80年代ポップスの構造を理系的に分析!

80年代音楽解体新書 (フィギュール彩 Ⅱ 1)
『80年代音楽解体新書 (フィギュール彩 Ⅱ 1)』
スージー鈴木
彩流社
1,760円(税込)
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 ミュージシャンやアイドルが歌う曲が次から次へとヒットした、J-POP黄金時代ともいえる1980年代。そうした80年代の名曲の数々について、「白くて大きなベッドにあお向けに寝かせて、鋭いメスを持ってグリグリと、その構造を解体・解析していく」というイメージで書かれたのが、音楽評論家・スージー鈴木氏による『80年代音楽解体新書』です。

 音楽評論というと、個人の感想や主観に重点を置いた「文系的」なものも多く見られますが、本書の大きな特徴となるのが、非常に「理系的」なアプローチをしているところ。では、「理系的な音楽評論」とはどのようなものかというと......?

 たとえば80年代の日本ポップスを代表する音楽家のひとり、山下達郎。彼の作品の強烈な個性として、「メジャーセブンス」というコード(和音)の徹底的な多用を著者は挙げます。その響きのイメージをあえて言葉にすると、「おしゃれ」「都会的」「哀愁」「センチメンタル」となるそうですが、これをイメージだけでなく、きちんと論理的に解き明かしていくのが著者の本領です。

 コード界には、明るい響きのメジャー(長調)コードの代表として「ド・ミ・ソ」のCメジャー、そして暗い響きのマイナー(短調)コードの代表として「ミ・ソ・シ」のEマイナーというものがあります。先ほど出てきた「メジャーセブンス」には、このメジャーコードとマイナーコードの両方が入っていると著者は説明します。「ド・ミ・ソ」という普通のメジャーコードに、「シ」という奇妙でクセの強い音を混ぜたコード(「ド・ミ・ソ・シ」という音の組み合せ)になっている。もう少し詳しく言うと、「メジャーコードの上に、マイナーコードが乗っている」状態なのだとか。正確にカウントしたことはないものの、山下達郎の80年代の作品に限れば、9割以上の楽曲でこのメジャーセブンスが使われているのではないかと著者は書いています。

 いっぽうで、メジャーセブンスの逆となるのが「マイナーセブンス」。これは「ラ・ド・ミ」というAマイナーのコードに、「ド・ミ・ソ」というCメジャーのコードが入っていて、「マイナーコードの上にメジャーコードが乗っている」構造の和音です。

 これを図式で紹介したうえで、「メジャーセブンスは山下達郎、そしてマイナーセブンスははっぴいえんど」と自身の考えを加える著者。フォークロックバンド・はっぴいえんどの『12月の雨の日』という曲を例にとり、「1970年前後、新宿三丁目あたりの昼下がり、雨上がりの湿った空気の曇り空の下を、陰鬱な表情の長髪の若者が行きかっている」というイメージを広げます。そして、そうした「マイナーの上にメジャーが乗っている=70年代の新宿」から、「メジャーの上にマイナーが乗っている=80年代の青山」といった流れで、80年代の山下達郎によるメロウで都会的なシティ・ポップとを対比しています。

このように、図や表を多用し論理的に解説している本書。これまでなんとくイメージで受け止めていた曲も、その構造を明かされることで「だからこの曲は多くの人の心を惹きつけるのか」「このアーティストのすばらしさはここにあるのか」などストンと腑に落ちたりします。

ここ最近、ふたたび注目を集めている80年代J-POP。昔ファンだったという世代も、新たに聴き始めた若い世代も、本書を読めばきっとその魅力にさらに引き込まれるに違いありません。

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