憑き物? 宗教? あらがえない将棋の魅力

『NHK将棋講座』2019年1月号掲載のNHK杯観戦記には、一回戦で藤井聡太七段を破った今泉健司四段が登場しています。観戦記者の後藤元気さんが、注目を集めた本局を振り返りました。

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今月号のNHK杯戦も好カードがめじろ押しでしたが、そのなかで結果ともども光り輝くのは、A級棋士の深浦康市九段を破った今泉健司四段の奮闘ぶりでしょう。
今泉四段は1回戦の藤井聡太七段戦に続き、下馬評を覆しての勝利。旋風を巻き起こしています。
この対局の観戦記者は上地隆蔵さん。本文にもあるようにお二人は奨励会入会が同年、同期(正確には今泉さんは研修会からの編入) でした。同期というのは何をするときも一緒になりやすいので、将棋を指したり麻雀(まーじゃん)を打ったり、まあ戦友であり悪友でもありという感じでしょうか。
終局後の控え室で上地さんは、「今日の戦型は昔から指されている対抗形で、奨励会時代の今泉―上地戦みたいやったな」と笑っていました。
どちらも奨励会を退会し、今泉さんは飲食系のサラリーマンから介護士になり、その後にセカンドチャンスをつかんでプロ棋士に。上地さんも一度は車系の会社に勤めたものの、現在は将棋の文章を中心に書くライターになっています。
同じく奨励会を退会した自分もそうなのですが、一度なにかのタイミングで将棋というものがスッと体に入ると、何をするにしても将棋を中心に考えてしまう(ようになる) 人がいます。プロ、アマや棋力の強弱はたぶん関係なく、呼吸をするのと同じように、気づいたら将棋に寄り添ってしまっているんです。
ある人はそれを宗教に、ある人は憑(つ)き物(もの)に例えたりしていました。どちらも合っているようで、ちょっと違うような気もします。
そもそも「将棋」とは何なのか。人の心に、世間にどういう影響を及ぼすものなのかと考え出すと、あまりに茫洋(ぼうよう)としていて気が遠くなりそうです。まあ、ゆっくりと取り組んでいくしかないですよね。
■『NHK将棋講座』2019年1月号より

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