短歌をとおして映画を鑑賞する

映画は短歌によく詠まれるモチーフです。「かばん」会員の東 直子(ひがし・なおこ)さんが、古今東西の映画を題材にした歌を紹介します。。

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暗い室内に浮かび上がる光の中に、行ったことのない場所、会ったことのない人々の姿が映り、ドラマが始まる映画。ホームドラマや青春ドラマ、SFやファンタジー、ミステリー、そしてドキュメンタリーなど、その内容は多岐にわたりますが、映画を観(み)ている間は現実の自分をひととき忘れて、スクリーンの中で繰り広げられる世界に没頭します。とてもわくわくする時間ですね。そんな「映画」を題材にした短歌を、ご紹介したいと思います。
インタビュアー演ずる女優の長き指意志もつごとき表情のあり

春日(かすが)いづみ『塩の行進』


「映画はイタリア人ジャーナリスト、オリアナ・ファラチのワレサへのインタビューを軸に展開される。」という詞書(ことばがき)が添えられています。この歌が入っている連作には「ワレサ連帯の男」というタイトルが付けられていて、ここで描かれている映画のタイトルでもあります。詞書の通り、ポーランドの元大統領でノーベル平和賞も受賞しているレフ・ワレサ氏へのインタビューを元にした、伝記映画なのでしょう。あいにく私はこの映画を観ていないのですが、一首を読むことによって、ジャーナリストを演じる女優の、指先まで意識した熱演が見えるようです。
修道士が母のなき子にうたふ歌〈おはやうマルセリーノ おめめを覚ませ〉

横山未来子(よこやま・みきこ)


スペイン映画『汚れなき悪戯(いたずら)』について詠んでいます。1955年に製作されたモノクロ映画で、修道院で育てられる孤児の少年、マルセリーノが主人公です。「おはようマルセリーノ」という歌詞(訳詞は相田裕美)で始まる哀感あふれる挿入歌は、日本でもヒットしたので聴いたことのある方もおられるでしょう。映画を知っている人は、掲出歌によってその切ない物語を反芻(はんすう)できます。映画の内容が全く分からない場合でも、修道士が、母親のいない子どもを慈しんでいる心理は、ぶれることなく伝わるかと思います。
具体的な映画が題材になった場合、その映画ついての知識や思い入れの度合いによって、歌から受け取る印象や広がり方が変化するのは、おもしろいことだと思います。
■『NHK短歌』2019年2月号より

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