「厚みを囲いたい」病を克服せよ!

白石勇一(しらいし・ゆういち)七段が、悪手を“病気”に見立てて、“処方箋”(解決策)を伝授してくれる別冊付録「白石勇一の棋譜クリニック〜あなたの悪手、なおします!〜」。今月の処方箋は「厚みを囲いたい」病です。

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数ある囲碁格言の中で、最もアマチュアの皆さんに知れ渡っているのは何か。調べたわけではないので断言はできません。ですが、「厚みを囲うな」は、少なくともトップ3には入っていると思っています。本書を手に取られている熱心な方なら、100%ご存じだと想像します。
しかし、不思議なもので、最も守られていない格言のワースト3を挙げろと言われれば、「厚みを囲うな」を省くわけにはいきません。皆さんはきちんと理解されているでしょうか。「厚み」とは何か。ここをおろそかにしていると、「囲う」という最もつまらない使い方をしてしまいます。
厚みとは、「100%生きている石」、「攻められる心配がない石」を言います。では、このような石を利用して、なぜ地を囲ってはいけないのでしょうか。答えは意外に簡単なんですよ。
厚みを囲うと、厚みのパワーはその囲った内側にしか向かわなくなります。つまり、厚みの役割はその時点で終わってしまう。終局まで、何の役にも立たなくなってしまうのです。
厚みを得るとき、ほとんどのケースで相手には実利を与えます。碁は地を争うゲーム。厚みの活用が不十分では、勝利をつかむことはかなり難しくなります。だからこそ、厚みは囲ってはいけないのです。理想は、厚みを息長く活用すること。厚みを囲うのは最後の最後で十分です。
「厚みを囲いたい」病は克服と同時にリハビリを始める必要があります。リハビリは厚みの正しい活用法を知ること。うってつけの問題を用意しました。じっくりと取り組んでください!

■ケース1

堅実な性格であろう方との五子局。黒16まで地面に足がぴったり着いた進行です。しかし、ただおとなしいだけではなかった。白19に黒20以下がすばらしい。黒30まで立派な勢力を築きました。 
◎出題図(1〜20)
黒は右上を丁寧に囲う方針を採りました。黒1から白20までをご確認ください。皆さんは黒を持ちたくなりますか? 確かに、右上に黒地はできましたが、白は上辺と下辺がふっくら。 の存在もぼやけています。さて、原因は?

Bad× 要治療! 厚みを囲ったことに…
黒1(出題図黒1)から囲う方針を採用したことが大きな過ちでした。 の集団をきちんと評価できていなかったようです。もし が薄みならこの進行で大正解。しかし、誰がどう見ても は強い。隙のない厚みです。それを囲うのは、利敵行為と言っていい。白は大喜びです!

 Good○ 1図 攻めたい、戦いたい!
「厚みを囲うな」の格言は、しっかり理解してほしい! そして、厚みは戦いの際にひときわ輝くことも知っておきましょう。戦いを起こすには黒1に打ち込む一手ですよね。△を攻めることになれば、右上の厚みが働かないわけがない。白はかなり苦しいはずです。

■『NHK囲碁講座』2018年10月号より

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