緻密で高性能だと思われがちな人のからだ 実は想定外な部分だらけ...?

想定外の人体解剖学
『想定外の人体解剖学』
坂井 建雄
エイ出版社
2,314円(税込)
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 なめらかな動きを作り出している筋肉や骨格、どんなコンピューターよりも優れている脳、生命を維持するために休みなく働く内臓たち......私たちの体は実に緻密に、高性能にできています。いえ、「できている」と思われています。

 けれどそんな精緻な人体も、見方を変えると情けなかったり残念だったりする部分がたくさんあるのだとか。

 そんな「なぜ?」という想定外な部分にスポットを当てたのが、坂井建雄著による本書『想定外の人体解剖学』です。

 たとえば、「脳は自分の痛みには気づけない」というのもそのひとつ。脳は外側を覆っている硬膜に痛みを感じる神経が集まっていて、その神経を通じてケガの情報が伝わり、初めて「痛い」と感じるようにできていますが、脳自体に神経は通っていません。言われてみれば、ずいぶんと回りくどい、不便そうなシステムと言えますね。

 本書の解説によると、そもそも脳は豆腐のように柔らかいもののため、脳のまわりを軟膜、クモ膜、硬膜の三層が包み、その外側を硬い頭蓋骨が守っているのだそう。そして、豆腐が水の入った容器の中で崩れないのと同様に、脳も軟膜とクモ膜の間の液体に浮いた状態で収まっているのだとか。頭をぶつけても液体がショックを吸収するため、脳は無事であり、頑丈に安全に守られています。そのため、脳自体が壊れることは想定されてなかったと考えることも。だから脳自体が痛みを感じるようには作られていない......ということのようです。不便には不便ながらの理由もあるわけですね!

 また、ついつい「ムダ」だと思ってしまうような想定外のシステムも。「コラーゲンを食べても肌はプルプルにならない!?」という項目を見てみると......。鶏肉や豚肉、スッポンなどに豊富に含まれるというコラーゲンですが、本書によると「食事でとった栄養素はそのまま体の中で使われるわけではない」のだとか! 特にコラーゲンなどのたんぱく質は体の中で分子量のアミノ酸に分解され、肝臓でいろいろな種類のたんぱく質につくり変えられ全身の細胞に届けられるため、肌に届くとは限らないそう。「コラーゲンを食べたら翌日、肌がプルプルに!」なんて話もよく聞きますが、美肌を気にする女性にとって、コラーゲンを食べることは「ムダ」とまでは言えないまでも過信するのはやめたほうがよさそうです。
 
 本書にはこうした想定外のシステムが実に150以上も紹介されています。すべてに意味や必要性があって存在していると思っていた機能にも、こんなにも多くの残念(?)な想定外があるとは......! それでも、現在の環境の中でやりくりして毎日を過ごしている私たち。それを考えると、なんだか急に自分の体が愛しくなってくるようにも思えます。もっとも身近にあるのに大きな神秘に満ちた「人体」。本書でその秘密にふれるたびに、皆さんも今まで以上に生命の尊さを感じてワクワクすることでしょう。

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