高浜虚子と星野立子 親子が詠んだ「薄暑」

初夏の頃、うっすらと汗ばむ季節を表す季題「薄暑(はくしょ)」。星野立子(ほしの・たつこ)とその父・高浜虚子(たかはま・きょし)が詠んだ薄暑の句から、親子で好対照をなす作品を紹介します。解説は星野立子の孫で「玉藻」主宰の星野高士(ほしの・たかし)さんです。

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星野立子の父の高浜虚子は、立子の俳句を「景三情七」であると評しました。「景」つまり客観的な景色ではなく、主観的な「情」の方が、立子俳句では中心に置かれているということです。今月の兼題の句からも、立子俳句の主観の面白みを感じます。
皆が見る私の和服パリ薄暑

星野立子



これは日本の文化使節団として、立子が派遣されたときの句です。当時の日本では和服の女性も多かったので、誰かにジロジロ見られたりしませんが、シャンゼリゼ通りでは和服は特別です。皆から注目の的になるのも当然です。華の都パリにて周囲の視線を集める、というのは中々愉快なことでしょう。
この句の力点は主観におかれていますが、客観も無くてはなりません。「景ゼロ情十」では、「目立っているお洒し ゃ れ 落なワタシ」といった嫌味な句になってしまうと思います。「景三」のさらりとした詠(よ)みぶりが、主観の面白さを引き出しています。
薄暑来ぬ人美しく装へば

星野立子



同じ立子俳句でも「景七情三」の詠みぶりです。先ほどのパリ人が日本語を覚えたなら、このように詠むのでしょう。薄暑の強い光を照り返すことにより、装いの美しさが増しています。
遮断機(しゃだんき)の今上りたり町薄暑

高浜虚子



立子の父の虚子は「景九情一」で薄暑を詠(うた)っています。立子は面白いものを面白く詠むのが得意ですが、虚子はつまらないものに目をつけるのが上手です。何気ない景色ですが、遮断機の先に広がる町からは、薄暑の光、暑さが伝わってきます。
■『NHK俳句』2018年5月号より

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