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園芸家についてユーモアに描いた一冊『園芸家の一年』に共感した------アノヒトの読書遍歴:コトリンゴさん(後編)

 2006年に「こんにちは またあした」でデビューを果たした音楽家のコトリンゴさん。ライブなど勢力的に音楽活動を行う傍ら、本も読むそうで、さまざまなジャンルの本を手に取るそう。幼少期には、料理、漫画、物語など。大人になってからは音楽に関する本などを読んだといいますが、最近では、雑草の調理法が紹介された一冊『野草の料理』が印象深かったそうです。そんなコトリンゴさんに、前回に引き続いて、日頃の読書生活についてお話を伺いました。

------前回は、好きな本の中から「料理」や「植物」がキーワードとして出てきました。
「『植物』といえば、実は今、園芸にすごくハマっていまして。そういう意味ではカレル・チャペック作の『園芸家の一年』はおもしろかったです」

------どんな本でしょうか?
「カレル・チャペックは旧チェコスロバキアの国民的作家さんでして、『ロボット』という単語を小説の中で生み出した作家さんでもあります。このカレル・チャペックさんですが、いろいろな趣味を持っていたらしく、その中の一つが園芸で。庭いじりをよくされていたというか、かなりのめり込んでいた様なんですが、その園芸家をちょっとユーモアたっぷりに描写しています」

------作者目線で語られる「園芸」ということですね。
「基本的にはカレル・チャペックさんがする事とか好きな事、やらなきゃいけない事が書いてあるんですけど、園芸家というのはどういう人種なのかということが結構書いてあって。例えばこの一文。『この世に存在するものは全て土に入れていいものか、良くないものか、そのどちらかである。ただちょっとした羞恥心のために園芸家は町の通りで馬の落とし物を拾い集めようとしないだけだ』ってあるんですけど、『とはいえ敷石の上にある見事な馬糞の山を見る度に、少なくとも園芸家はため息をついて、神の贈り物がなんと勿体ない事かと嘆く』ともあるんです。という事はですね、これはちょっと昔のお話なので、そのまま堆肥になるようなお馬さんの落とし物を本当は持って帰ったらとても土にいいんだけど、ちょっとなんか気取ってそこはグッと堪えてるところとか、あとはお隣さんとの、なんていうか『うちにはこんな花があるんですよ、どうぞ見てください』っていう感じの自慢のし合いとか。今となってはすごく贅沢な自慢のし合いだなぁと思うんですけど」

------この作品のどんなところに共感しましたか?
「私がニューヨークに住んでいたときのことなんですが、まったくこう、陽の当たらない部屋に住んでおりまして。ファミリーアパートメントの中の一部屋を間借りして住んでいたので、もちろんリビングに行けば通りに面していて陽がすごく当たって気持ちいいお部屋なんですが、自分のお部屋は一番奥のベッドルームで。窓の向こうは隣のビルの窓っていう感じだったので、カーテンも閉め切って。一日中部屋にいるなら電気が必要なお部屋だったので、植物が何も育たない部屋で。そんななかで日本に帰って来たときに、初めてこう、ベランダがあって、お日様サンサンのお部屋に引っ越してきたときから、私も園芸にすごくハマってしまいまして。そんな風にして園芸にハマった人の事を、この本では、おもしろく描写しているんです」

------好きな園芸についておもしろく描かれているわけですね。
「ええ。『植物』というともう一冊、ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ヴィオラ作『植物は〈知性〉をもっている』も印象に残りました。植物に対して、今まで普通に『あ、植物生えてるなぁ』とかそういう風に見てた視点がガラッと変わるような本です。植物に対する尊敬とかも出てきますね」

------どのように植物が描かれているんでしょうか?
「割と難しい言葉でいっぱい書かれてあるんですけど、簡単にいうと、タイトルにもあるように植物というのは知性を持っていて、私たちと同じように考えて、感じて、感情も持っていて、というところから始まります。でもあまりにもそのスピードが遅いので、私たちにはなかなかそれが見えづらく感じづらいんですけど、それをちゃんと、なぜ知性があるって言えるのかというのをステファノさんが研究されています」

------植物に知性が。
「ええ、いろいろな例があるんですけど、例えば、植物は一見その場所から動かないように見えているんですけど、実はいろいろ自分から動いたりとかもしている。さらに、嗅覚もあるんじゃないかとか。あとはですね、人間には心臓とか脳みそといった大切な臓器があるわけですけど、それが一個なくなっちゃうと、もう生きていけなくなったりします。しかし植物は、いろいろなところにいろいろな役割を分散させているので、葉っぱが一つ無くなってもまた生やせばという風に、何かが無くなってもまだ生きていけるという、人間とは違ったシステムを持っています。そういったニュアンスのことがずっと書かれている本なんですが、私の家の中にポンって飾ってある観葉植物は、お水が足りなくなってきたら、葉っぱを一斉にボロボロボロって落としたりするんですよ。それがまるでこう『お水ないんだけど』っていう抗議みたいに見えてきたりして......読み終わったら多分、思わず植物に話しかけたくなると思いますよ」

------コトリンゴさん、ありがとうございました!

<プロフィール>
コトリンゴ/1978年7月17日生まれ、大阪府出身。音楽家。2006年3月、坂本龍一のラジオ番組J-WAVE「RADIO SAKAMOTO」宛にデモテープを送ったことがきっかけで、同年11月に「こんにちは またあした」でデビューする。2016年11月、映画『この世界の片隅に』の音楽を担当し、毎日映画コンクール音楽賞や日本アカデミー賞優秀音楽賞などを受賞する。2017年11月には自身のレーベルkoniwaからアルバム『雨の箱庭』をリリースした。今年5月には音楽フェス「Lotus music & book cafe'18」に出演。6月23日には「Live 2018〜雨の雫とピチカート〜 with 徳澤青弦カルテット」を開催するなど、ライブを中心に今もなお勢力的に活動を続ける。

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