新品種の作出、生産者の利益を守る–種苗法の話【後編】
- このラベルには農林水産省種苗登録品種と記され、その番号も明記されている。品種登録データ検索をすれば即座に権利者の情報などがわかる。カタログに掲出しているものもある。撮影:桜野良充
大切に育てた植物を好き勝手にあげたりしてはいけないらしい……。今回は、聞いたことはあるけれど詳しくは知らない法律、「種苗法」についてお届けします。
前編はこちら
* * *
■法律を遵守しないと新品種が生まれなくなる?
種苗法が正しく運用されないとどういうことが起こるのでしょうか。
例えば、近年人気の高いブドウ品種′シャインマスカット′が、中国に流出したという事案が昨年確認されました。中国での品種登録の出願を期限内に行っていなかったために、有用な対抗手段を見つけられずにいるようです。
ほかにも、インゲンマメ、アズキ、イチゴなどでも同様のことが起きています。
種苗法の管轄が食料産業局であることからも、大きな利害の衝突がまずは食料関係から始まったことがわかります。そしてそれは食用の農作物だけにとどまらず、カーネーションや和菊でも、権利の侵害が報告されているのです。
どの国がつくっても、誰がつくっても、安く手に入ればいいと考えていて種苗法の運用をないがしろにしていると、いつの日か新品種が作出されなくなることもありうるのです。公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF)の石川君子さんのいう「この制度があるおかげで多様な品種が育成される」とは、まさにこのことなのです。
■園芸店でラベルを見ることが第一歩
園芸に関する商品において、その品種登録の有無は、主に鉢などに差し込まれるラベルに記載するようにと指導されています。小売店の店頭などでラベルを見ることで、購入者が確認できるようになっています。
大手種苗メーカーであるM&Bフローラの営業部課長、松本奈津さんにお話を伺いました。
「一般ユーザー向けには、ラベルに営利的な増殖をやめてもらうよう、記載しています。また、基本的には譲渡もやめてください、とは書いてあります。ただ、一般の方がふやした鉢などをお隣さんにもあげる、ということまで規制するということではありません」
権利元であることの多い種苗メーカーの中にも、こういった意見があるのは心強い限りです。しかし、譲渡にしてもいろいろなケースが想定されます。
だとすれば、こういう考え方はどうでしょうか。基本的に、植物のやり取りをした瞬間に、個人的な利益が生じるかどうかが問題だ、という考え方です。金銭なり見返り(物々交換などで得られる物品)は、個人的な利益ですから、行わないようにするのです。小さくてもあちこちで個人的な利益を得るために登録品種が売買・譲渡されれば、それはまわりまわって育種をする人などの不利益につながるからです。
種苗法の遵守は多くの生産者にとっての利益を守ることになるのでは、とこの種苗メーカーは考えているようです。
「登録品種を保護するだけでは、似たような形状、性質の品種が作出されてしまうことが止められません。そのようなものが一度に大量に出回ると、値崩れが起きて、結果的に生産者さんが苦労してしまいます。なので、一部の品種に関しては、栽培される生産者さんにそれをもとにした育種も禁止するような誓約書へのサインも求めています。法律ではなく、種苗会社と生産者さんとの契約で禁止しているのですが、契約した生産者さんは、きちんと認識して運用してくださっています」(前出・松本さん)
一方で、自由に育種ができないことに対して窮屈さを感じるという声もあります。植物の多様性の確保にとって、そして健全な園芸業界の発展にとって、どういう方法がより正しいのか。大いに議論をして、よりよい方法を模索することが必要でしょう。
取材・文/渡辺ロイ
■『NHK趣味の園芸』2018年1月号より
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■法律を遵守しないと新品種が生まれなくなる?
種苗法が正しく運用されないとどういうことが起こるのでしょうか。
例えば、近年人気の高いブドウ品種′シャインマスカット′が、中国に流出したという事案が昨年確認されました。中国での品種登録の出願を期限内に行っていなかったために、有用な対抗手段を見つけられずにいるようです。
ほかにも、インゲンマメ、アズキ、イチゴなどでも同様のことが起きています。
種苗法の管轄が食料産業局であることからも、大きな利害の衝突がまずは食料関係から始まったことがわかります。そしてそれは食用の農作物だけにとどまらず、カーネーションや和菊でも、権利の侵害が報告されているのです。
どの国がつくっても、誰がつくっても、安く手に入ればいいと考えていて種苗法の運用をないがしろにしていると、いつの日か新品種が作出されなくなることもありうるのです。公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF)の石川君子さんのいう「この制度があるおかげで多様な品種が育成される」とは、まさにこのことなのです。
■園芸店でラベルを見ることが第一歩
園芸に関する商品において、その品種登録の有無は、主に鉢などに差し込まれるラベルに記載するようにと指導されています。小売店の店頭などでラベルを見ることで、購入者が確認できるようになっています。
大手種苗メーカーであるM&Bフローラの営業部課長、松本奈津さんにお話を伺いました。
「一般ユーザー向けには、ラベルに営利的な増殖をやめてもらうよう、記載しています。また、基本的には譲渡もやめてください、とは書いてあります。ただ、一般の方がふやした鉢などをお隣さんにもあげる、ということまで規制するということではありません」
権利元であることの多い種苗メーカーの中にも、こういった意見があるのは心強い限りです。しかし、譲渡にしてもいろいろなケースが想定されます。
だとすれば、こういう考え方はどうでしょうか。基本的に、植物のやり取りをした瞬間に、個人的な利益が生じるかどうかが問題だ、という考え方です。金銭なり見返り(物々交換などで得られる物品)は、個人的な利益ですから、行わないようにするのです。小さくてもあちこちで個人的な利益を得るために登録品種が売買・譲渡されれば、それはまわりまわって育種をする人などの不利益につながるからです。
種苗法の遵守は多くの生産者にとっての利益を守ることになるのでは、とこの種苗メーカーは考えているようです。
「登録品種を保護するだけでは、似たような形状、性質の品種が作出されてしまうことが止められません。そのようなものが一度に大量に出回ると、値崩れが起きて、結果的に生産者さんが苦労してしまいます。なので、一部の品種に関しては、栽培される生産者さんにそれをもとにした育種も禁止するような誓約書へのサインも求めています。法律ではなく、種苗会社と生産者さんとの契約で禁止しているのですが、契約した生産者さんは、きちんと認識して運用してくださっています」(前出・松本さん)
一方で、自由に育種ができないことに対して窮屈さを感じるという声もあります。植物の多様性の確保にとって、そして健全な園芸業界の発展にとって、どういう方法がより正しいのか。大いに議論をして、よりよい方法を模索することが必要でしょう。
取材・文/渡辺ロイ
■『NHK趣味の園芸』2018年1月号より
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