あらゆる手口で商品を買い占めて高額で売り飛ばす「転売ヤー」の実態をレポート

転売ヤー 闇の経済学 (新潮新書 1067)
『転売ヤー 闇の経済学 (新潮新書 1067)』
奥窪 優木
新潮社
946円(税込)
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 一方から買いつけた物を、さらに別の人に売り渡して利益を得る「転売」。これは、はるか昔からおこなわれていた行為だと言えます。戦中・戦後になると配給切符を転売する人がいたり、高度経済成長期以降はコンサートのチケットや乗車券などを転売する「ダフ屋」が隆盛を誇ったりしました。そして現代のダフ屋といえば「転売ヤー」と呼ばれる人たちでしょう。

 「本書により、彼らの日常と転売のからくりを詳らかにすることが、筆者なりの問題提起となれば」との思いから奥窪優木さんが執筆したのが、今回ご紹介する書籍『転売ヤー 闇の経済学』です。

 需要が供給を大幅に上回る局面ならどこにでも出現する転売ヤーたち。中でも同書で目を引くのが、ディズニーグッズの転売ヤー集団に密着したレポートです。

 2023年4月、筆者が同行したのは中国系の3つの転売事業者から集まった5人組。彼らは目的地のディズニーシーで、かさ増ししてのチェックインやスマホでのスタンバイパスの獲得などを駆使して商材となるグッズを次々と購入していきます。しかも、店内の買い物客の7、8割は同じような転売ヤー集団に見受けられたそうです。

 筆者はこの状況を目にして、「スタンバイパスはもともと、混雑に悩まされることなく落ち着いて買物を楽しんでもらうために導入されたシステムかもしれないが、その恩恵を最も受けているのは転売ヤー集団という、皮肉な状況となっている」(同書より)と記します。

 ディズニーランドやディズニーシーはアトラクションやショーを楽しみ、おみやげとしてグッズを買い求める人たちが訪れる夢の国であるだけに、完全に「商材の買い付け」目的でおとずれている転売ヤーたちの姿はより異様な存在に感じられます。ディズニー側も転売対策を強化しているものの、著者は「オリエンタルランドによる対策の強化は、果たして転売ヤーの駆逐に繋がるのか。それを見極めるにはまだもう少し時間がかかりそうだ」(同書より)と見ており、やはり完全解決するのは難しいようです。

 ほかにも人気スポーツ選手のグッズやポケモンカード、PS5、格安スマホ、クレジットカード・電子マネーなど、転売は多岐にわたっておこなわれています。「現在の転売市場は、簡単にいうと『持てる者』が『持たざる者』の購入チャンスを奪い取るような状況に陥っている」(同書より)と筆者は警鐘を鳴らします。

 ライブやスポーツなどのいわゆる特定興行入場券を除けば転売行為自体は合法だという中で、デジタル社会に跋扈(ばっこ)する「転売ヤー」たちにどう対処するのがよいのでしょうか。完全に排除するのは難しいにしても、私たち消費者ができることのひとつは、同書で福井健策弁護士がコメントしているように「少なくとも不正が介在していることが明らかな商品を購入しないこと。買うことによって転売に協力しないようにすること」であるのは覚えておきたいところです。

[文・鷺ノ宮やよい]

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