ユニクロはなぜ世界的アパレル企業になりえたか? 進化の過程をリアルに描いたノンフィクション

ユニクロ
『ユニクロ』
杉本 貴司
日経BP
2,090円(税込)
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 今や日本のみならず世界中に店舗を展開するユニクロ。エアリズムにヒートテック、フリース、ウルトラライトダウンジャケットなど、これまでに数々のヒット商品を生み出してきた同ブランドは、それまでの服に対する価値観や概念を変えたといっても過言ではないはず。地方のさびれた商店街にあった紳士服店が、なぜここまで巨大な一大アパレル企業へと成長できたのでしょうか。その進化の過程を、社長の柳井 正とその同志たちの姿とともに描き出したノンフィクションが、杉本貴司氏による書籍『ユニクロ』です。

 日本を代表する経営者となった柳井氏ですが、若いころから切れ者だったというわけではないようです。山口県宇部市での高校時代は内気で影が薄い存在。東京の早稲田大学に進学後もマージャンやパチンコに明け暮れる毎日で、「寝太郎」とあだ名がつくほど無気力な青年でした。その後、宇部市に戻り父から経営を受け継ぐものの、しばらくは鳴かず飛ばずの時代が続きます。しかし、「この間に柳井正が向き合った『解なき問い』こそが、その後のユニクロの爆発的な成長をもたらす原動力となったことは間違いない」(同書より)と著者が記すとおり、この暗黒の10年間を経て、柳井氏はようやく「カジュアルファッションの可能性」に光明を見出します。「いつでもだれでも好きな服を選べる巨大な倉庫」というコンセプトで広島県にオープンした新店舗は、開店初日から大ブレークを記録したのです。

 しかし、そこからユニクロの止まらぬ快進撃が続くか......というと、けっしてそうではありません。同書で何度も出てくるのが、「ユニクロの歩みは足し算と引き算の繰り返し」との言葉。時に大きく飛躍したかと思えばつまずいて坂を転げ落ち、そしてまた登り方を変えて挑み、それが足し算とは思えないほどのケタ違いの成果を見せる――そうして進化してきたのがユニクロです。フリースの爆発的ヒット、その後おとずれたブームの終焉、古参社員との別れ、海外進出での失敗と成功、旗艦店戦略、ウイグル問題など、同書ではユニクロの歩みとその内情が非常に詳しく記されています。

 1984年に誕生した「カジュアルウェアの倉庫」を第1形態とすると、ロードサイドへの出店という第2形態、SPA(製造小売業)へのビジネスモデルの転換という第3形態を経て、服の国際分業サプライチェーン網を築き上げることとなったユニクロ。今後、柳井氏は「つくったものを売る商売から、売れるものをつくる商売へ――」という理想像を、デジタル革命というイノベーションの力を取り入れることによって「情報製造小売業への転換」という新形態で実現しようと考えているといいます。まだまだユニクロの進化は止まることがないようです。

 日本の会社の99%以上は名もなき中小企業であり、ユニクロももとはそうした会社のひとつに過ぎませんでした。そしてそこから発展したのは、高度経済成長期ではなく日本の経済成長が失われてからの話です。だからこそ著者は、「誰もがつかめるはずの栄光が、そのチャンスやヒントが、この物語の中に存在する」(同書より)と言います。失敗しながらもチャレンジを恐れないユニクロの姿から、「まだまだ自分にもできることがあるかもしれない」と希望を感じる人も多いのではないでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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