本来なら飼育できない動物をもしも飼えるとしたら? ジャイアントパンダの餌代は月に約650万円だった

妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?
『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』
北澤 功,日経ナショナルジオグラフィック
日経ナショナルジオグラフィック
1,980円(税込)
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 ライオン、クマ、アザラシ――。法や環境などさまざまな理由によって家庭で飼うことができない動物たち。本来なら飼育できないはずの動物を、もしも飼えるとしたら?

 北澤 功氏の著書『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』(日経ナショナルジオグラフィック)では、獣医師である北澤氏が過去の経験と知識から、もしも飼えないはずの動物を空想上で飼ったらいくらかかるのか、具体的な飼育方法と共に紹介している。

「過去にアザラシが漂着した土地や回遊ルートに近い海岸をリサーチして、そこに家を建てたり借りたりして住み、アザラシの漂着を待ちましょう」(同書より)

 「飼えない動物、一緒に住んだらいくら?」のトップバッターはアザラシ。さすが空想上の飼育だ。まさかのアザラシの漂着を待つところからのスタート。というのも、現在はアザラシ漁が禁止されているものの、必要があると認められた場合などには捕獲や保護をすることができるというのだ。

 そしてアザラシを飼うためには、地元の工務店などに依頼して、マンションの1室を丸々プールに造り変えてもらう必要がある。アザラシは陸上でも活動するが、水中で過ごす時間のほうが長いため、と北澤氏は説明している。

 また、プールに海水を補充しなければいけないのだが、プールに入れる前の消毒、全量を入れ替えることによる水質の変化、排泄物で汚れてしまうなどの観点から24時間体制でお世話をしなければならない。

 しかし北澤氏が仮定した1カ月の飼育代金は、家賃・光熱費・餌代、その他諸々を合わせて27万8000円と、重労働のわりにそれほど飼育代はかからないという印象を受けた。

「動物は『物』ではありませんが、『物』の字が入るので『物々交換』という言葉がぴったりかもしれません」(同書より)

 空想上の飼育の話だけでなく、合間には関係者しか知らないような動物に関するコラムをいくつか挟んでいる。これがなかなか面白い。

 北澤氏が言うには、動物園や水族館では新しい動物を飼育するために、動物を交換することがあるという。この交換はお金のやり取りなしで動物と動物を交換するもので、無償で入手できることもあれば、"ブリーディングローン"という制度を利用して借りられることがあるそうだ。

 "ブリーディングローン"とは単なる貸し借りではなく、「良好なペアを作り動物園で個体を増やすために動物を貸し借りすること」で、この制度の根底には「動物は動物園や水族館のものではなく、地球からの預かりものである」という考えがある。そのため、生体に対するお金のやり取りは発生せず、輸送費のみを借り受け側が負担することになっているという。

「日本にいるパンダは中国からレンタルされたもので、報道によれば、レンタル料は2頭で約95万ドル(約1億4000万円)だそうです」(同書より)

 さて、著書のタイトルにもある本題のジャイアントパンダだが、北澤氏の知識によると2頭の1年間のレンタル料は1億円を超えるとのこと。合法で飼育できるようになったとしても、飼育代どころかレンタル料を用意するのも難しいのではないか。

 そんなジャイアントパンダ1頭が1日に食す竹の量は15キログラム前後、1日に21万6166円かかる計算だ。1カ月にするとなんと648万5000円の飼育費用がかかる。普通に働いていたらとても払える金額ではない...。

「ジャイアントパンダより先に発見されたのがレッサーパンダです」(同書より)

 レッサーパンダの主食もジャイアントパンダと同じく竹で、腸内環境のバランスを保つのに欠かせない。ビタミンやミネラルを補うために、リンゴやバナナなどの果物も毎日あげると仮定して、1カ月で17万3000円の飼育費になる。

 強靭な歯や顎を持つレッサーパンダはおとなしい性格だが、怒るとひっかいたり噛み付いたりするという。もしも飼うとなったら自分が怪我をすることも覚悟したほうが良さそうだ。

 同書ではほかにも、現実では飼えない動物の比較として、イヌやネコなどの身近な動物も紹介している。また、実際に北澤氏が動物を診療したときの話や法律も掲載しており、空想飼育を楽しむだけでなく、勉強になる一冊となっている。

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