極貧時代が名曲を生み出している!? 海外アーティストたちの赤裸々すぎる私生活を覗く
- 『不道徳ロック講座 (新潮新書)』
- 神舘 和典
- 新潮社
- 880円(税込)
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ミュージシャンやタレントなど、人に見られる仕事をしている人たちにとってスキャンダルは致命的だろう。それはどの国においても共通して言えることだが、日本と海外ではそもそもの考え方が違うようだ。
今回みなさんに紹介するのは『不道徳ロック講座』(新潮社)。著者は音楽ライターとして多くの日本人アーティストのインタビューを手がけてきた神舘和典氏である。同書では世界的アーティストの赤裸々エピソードを、自伝や本人公認の伝記・インタビューをもとに紹介しており、神舘氏が冒頭でこのように語るほど刺激的な話ばかりだ。
「日本の状況しか知らずに海外アーティストのバイオグラフィやインタビュー記事を読むと驚かされる。
その多くが赤裸々。『えっ、そんなこと活字で残しちゃっていいの?』と心配になるレベルのエピソードが語られている」(同書より)
同書では「性」「薬」「酒」「貧乏」の4つのテーマ別にエピソードがまとめられている。それぞれのテーマに関係のある海外アーティストたちが登場するが、そのそうそうたる顔ぶれにまず驚かされる。誰もが一度は耳にしたことがあるようなアーティストばかりだ。最初の「性」で"ロック界の性豪"として登場するのが、ザ・ローリング・ストーンズのヴォーカリスト、ミック・ジャガー氏である。
「ロック・スターは恋愛に奔放だ。目の前に魅力的な女性が現れたら遠慮などしない。拒否されようが、ライバルと争うことになろうが突き進む」(同書より)
ミック氏にとって、有り余るエネルギーを放出して自分を維持するためにセックスは必要不可欠なのだ。関係が報じられた有名人は20人以上で、同時期に複数の女性との交際は当たり前のこと。友人やバンドメンバーの妻や恋人、ファン、自分の家で働くお手伝いさん、女性のみならず男性とも関係があり、自分の視野に入る存在に次々と関係を迫る。異常とも思えるような恋愛遍歴だが、その経験から数々の名曲が誕生しているのである。
「個人的な恋愛体験を作詞・作曲にいかすのはミック・ジャガーに限ったことではない。多くのアーティストが、この手法で音楽をつくり、歌い、演奏してきた」(同書より)
次に紹介するのは、"音楽で女性にアプローチする第一人者"として、好きな女性のための曲を多く生み出してきたエリック・クラプトン氏である。実はクラプトン氏は同書でたびたび登場する。「性」では6年かけて親友の妻との愛を成就させ、その後に離婚。「薬」と「酒」では、ドラッグ依存からアルコール依存になり、愛息の死をきっかけに最悪の健康状態から社会復帰するまでのエピソードが紹介されている。
「クラプトンは、セックス、ドラッグ、アルコール、すべてに溺れた。
ただし、命の危険が近づくと、必ずどこからか救いの手が差し伸べられる。そして、名曲をつくる。(中略)多くの人が放っておけない何かをこの人が持っているとしか思えない」(同書より)
クラプトン氏がトップアーティストとして駆け抜けているのは彼の人徳はもちろんだが、危機的状況も乗り越えられるタフさゆえだろう。タフさでいえば、同書の「貧乏」で登場する、のちに"クイーン・オブ・ポップ"と称されることになるマドンナ氏もそのひとりだ。
マドンナ氏は19歳のときにダンサーを目指し、わずかなお金で単身ニューヨークに向かった。そこからの想像を絶する極貧生活が紹介されている。部屋にゴキブリ、廊下には薬物中毒者が多くいる最悪の場所で生活していたことや、空腹でゴミ箱をあさって食べ物を探していたエピソードには驚かされる。そのような環境の中、マドンナ氏がダンサーからミュージシャンに転向し、活躍のステージを上げていく様は読んでいて清々しい。
「何もかも怖かったわよ。不安にかられて突っ走ってきたようなものよ。いつも自分に言い聞かせてたわ。これは難しい、恐ろしい、でもなんとかしようって」(同書より)
マドンナ氏の意志の強さが今の大成功につながっているのだろう。同書を読むと大物アーティストたちの赤裸々すぎるプライベートに驚かされるが、一般人にはないメンタルの強さと感覚を持ち合わせているからこそ大成功してきたんだろうと納得させられる。そして、どんな危機的状況であってもあまりネガティブを感じさせないところは流石だ。大物アーティストたちの刺激的な背景からあの名曲たちが生まれたと思うと、今までとは違った気持ちで曲が聞けそうだ。