カスタマーハラスメントはなぜなくならない? その構造を犯罪心理学者が分析&対策を提案
- 『カスハラの犯罪心理学 (インターナショナル新書)』
- 桐生 正幸
- 集英社インターナショナル
- 979円(税込)
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従業員への悪質なクレームや物理的・精神的な嫌がらせ全般を指す「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。以前、そうした客への対応マニュアルを網羅した書籍『グレークレームを"ありがとう!"に変える応対術』をBOOKSTANDでも取り上げたことがありますが、世の中のカスハラ被害はコロナ禍で拍車がかかり、さらに拡大しているようです。
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/news/2020/06/26/120000.html
今回紹介する書籍『カスハラの犯罪心理学』は、犯罪心理学者の桐生正幸氏がカスハラの実態を分析するとともに、その対策について記した一冊です。桐生氏は、過去に山形県警の科学捜査研究所(科捜研)で主任研究科官として犯罪者プロファイリングなどの心理分析の業務に携わってきた人物で、大学で教鞭をとるようになってからも捜査協力や防犯アドバイザーなどを務めています。
こう聞くと、皆さんの中には「カスハラが犯罪だなんておおげさな......」と思う人もいるかもしれません。けれど、長年カスハラ研究をしてきた桐生氏によると、「問題行動を繰り返す常習性がある」「自分の間違いを認めづらく、不当行為の正当性を激しく主張する」「攻撃的な感情をむき出しにする」などといった点で、カスハラにはストーカー犯罪と非常によく似た加害者心理が見られるそうです。
また、桐生氏の指摘で見逃せないと感じるのが、2000年代に入ってから日本の殺人事件がそれまでと変質したという点。「秋葉原通り魔事件」「京都アニメーション放火殺人事件」「大阪北新地ビル放火殺人事件」などは特に顕著で、いずれも共通しているのがグループに属さず単独でテロ攻撃を実行する「孤独なニホンオオカミ」型であるということです。「孤独感や社会に対する不満を抱え、歪んだ自己主張に酔っている節がある」「承認欲求の強い言動を見せ、去勢を張り、一点に固執し、突然に攻撃してくる」などは、カスハラ加害者たちの持つ傾向と酷似していると言えます。こうして見ると、カスハラは犯罪だという桐生氏の意見も納得できるのではないでしょうか。
同書では悪質なカスハラ事例、その具体的な対応策について記すとともに、特筆すべきは法規制についてまで踏み込んでいる点です。2022年に厚生労働省により「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が発表され、カスハラの定義は明文化されたものの、それそのものを取り締まる法律まではないのが現状だといいます。
「カスハラを防ぐ法律をつくることで、誰もがはっきりと『これはカスハラ』だとわかるようにする。それによって、企業はもちろん、消費者の側も『犯罪行為をしない』『犯罪行為を見逃なさい』ために大きな一歩を踏み出せるようになるはずだ」(同書より)
日本では長年、「お客様は神様」が曲解され、諸外国に比べて「お金を払っている客側が偉い」という認識が続いてきました。けれど、桐生氏が提唱するのは客と接客者は対等であるという「お客様とはおたがい様」のあり方。そのためにはどのような心がけを持つべきか、どのような社会であるべきなのか――私たち一人ひとりが考えてみることが、カスハラ加害・被害をなくすための身近な一歩になるかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]