非ヴィーガンの記者が知られざる世界を徹底取材! 食との付き合い方が見えてくる一冊

ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方 (角川新書)
『ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方 (角川新書)』
森 映子
KADOKAWA
990円(税込)
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 動物性食材をいっさい食べない完全菜食主義者を意味する「ヴィーガン」。海外ではヴィーガンであることを公言する著名人も多く、日本でもその注目度は着々と高まっています。

 とはいえ、ある意味、非常に極端な食生活であることや、宗教や信条的な理由で取り入れている場合もあることなどから、ヴィーガンは自分とはかけ離れた世界の人たちだと感じている人もいるのではないでしょうか。けれど、今回紹介する書籍『ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方』を読むと、まるっきり他人事とは感じなくなるかもしれません。

 同書は、時事通信文化特信部記者の森 映子氏がヴィーガンを実践する人々や代替肉のスタートアップ企業、畜産の現場などを直接取材し、その実態をリポートした一冊です。著者が非ヴィーガンなこともあり、全体を通して客観性を持ったフラットな視点で綴られています。

 ヴィーガンとひとことで言っても、そこにいたる背景は人それぞれです。そのなかで、まずひとつの大きな理由としてあがるのが、地球環境への負荷や人口増加による食糧危機などに対する問題意識です。プラントベース商品を開発する企業や培養肉を研究中の大学教授、ヴィーガン飲食店の経営者などのインタビューを通して得た最新事情が詳しく記されています。

 もうひとつ、ヴィーガンになる理由として多いのが動物愛護的考えによるものです。なかでも大量の動物を畜舎に閉じ込めて飼育する「工場畜産」と呼ばれる生産方式は、日本でも近年特に問題視されています。著者は養鶏場や養豚場を取材し、その実情をレポート。2021年に起きた鶏卵汚職事件について報じ、日本がアニマルウェルフェア(動物福祉)に後ろ向きである理由を考察しています。

 環境や人口増加、食肉にまつわる問題は、ヴィーガンであろうとなかろうと、私たちの生活そのものに関係しています。完全菜食になろうとは思わなくとも、私たちの行動ひとつで世界がほんの少しでもよい方向に変わるのであれば、実践してみようと思う人もいるのではないでしょうか。

 たとえば、週に1日肉を食べない日を作る「ミートフリーマンデー」を取り入れたり、いつも買っているケージ卵を平飼い卵に変えたり(卵が高くなったので大変ではありますが......)、料理好きな人なら代替肉レシピにチャレンジしてみたり。もちろん、今までどおりの生活を続けることも自由です。ただ、今ある問題を知ることは、私たちの未来にとって大切なことだと言えるでしょう。

 同書はけっしてヴィーガンを手放しで称賛するものではありません。ヴィーガンの世界を通して、私たち自身が食とどう向き合い、どう付き合っていくのかを問いかける一冊になっています。知られざる世界を知ることで、きっと皆さんにも見えてくるものがあるのではないでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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