忖度し過ぎが日本を滅ぼす!? クルーズ船"告発"医師がYouTubeに動画公開したワケ

ぼくが見つけたいじめを克服する方法 日本の空気、体質を変える (光文社新書)
『ぼくが見つけたいじめを克服する方法 日本の空気、体質を変える (光文社新書)』
岩田 健太郎
光文社
968円(税込)
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 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の告発で耳目を集めた、神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎医師。2020年2月18日に、新型コロナウイルスの集団感染が起きていた船内の状況をYouTubeにアップロードし、動画は世界中で拡散されました。

 その行為には賛否両論ありましたが、一体なぜ、岩田医師は動画を公開するという手段を取ったのでしょうか?

 近著『ぼくが見つけたいじめを克服する方法 日本の空気、体質を変える』では、その理由について、以下のように振り返っています。

 「結局のところ、ぼくがYouTubeにダイヤモンド・プリンセスの実情をアップしたのは、『理不尽に泣き寝入りはしない、絶対にしない』という思いがあったからだと思う」(本書より)

 横浜港に停泊中の船内の情報が出て来ない状況を懸念した岩田医師は、感染対策のために乗船します。もともと、クルーズ船という空間は閉鎖的な環境で、感染症リスクが非常に高い場所でした。

 乗船してみると、船内には感染症対策の専門家が1人もおらず、非常に危険な状況。感染対策の基本であるゾーニング(ウイルスに汚染されていないグリーンゾーンと、汚染されているレッドゾーンを区別すること)が不完全だったために、乗客乗員以外にも、医療従事者や検疫官、厚生労働省の官僚が多数、二次感染してしまったのです。

 しかし、感染症の専門家の立場から、改善対策を進言した岩田医師は、乗船からわずか2時間後に締め出されてしまいます。

 背景には、日本社会特有の同調圧力があったと述べます。本書では、異なる意見に耳を傾けることなく、問答無用に排除する状況は、多様性の否定でしかなく、異論を認めない社会は、全体主義に行き着くと警鐘を鳴らしています。

 本書では、こうした日本社会のありようこそが、いじめを許容する構造になっており「大人の社会がいじめ社会だから、子供社会でいじめがなくなるわけがないのだ」(本書より)と言います。自身も子供時代に、いじめられる側だったという岩田医師は、リアルないじめ対策として、事実確認と公表、情報をクローズにせずオープンにすることが有効だと述べます。つまり、それが今回の動画を公開するという手段だったわけです。

 「日本の人たちが『人と違う』ことに耐えられるようになったとき。そのとき、日本のいじめ問題も(皆無にはならないまでも)多くは克服・軽減されるだろう」(本書より)

 今回のコロナ禍により、さまざまな変革を余儀なくされている日本社会。一人一人の意識改革こそが、コロナ克服のカギと言えるのかもしれません。

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