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島本理生さんの『ファースト・ラブ』はセラピーの観点からみても興味深い一冊------アノヒトの読書遍歴:ロバート・ハリスさん(前編)
自叙伝や旅をテーマにした著書を多く執筆する作家のロバート・ハリスさん。大学卒業後の東南アジア放浪を経て、1988年までオーストラリアに16年間滞在し、シドニーでは書店兼画廊「エグザイルス」を経営していました。また、テレビ番組や映画などでも活躍し、帰国後、92年からはJ-WAVEのナビゲーターも担当。現在は作家としても活躍中で、著書に『エグザイルス』『ワイルドサイドを歩け』『黒く塗れ!』『人生100のリスト』『アフォリズム』などがあります。2018年9月には自身初の長編小説となる『JJ 横浜ダイアリーズ』を出版したハリスさん。今回はそんなハリスさんの日頃の読書生活についてお話を伺いました。
------まず、今回出版された『JJ 横浜ダイアリーズ』。こちらはどんな内容になっていますか?
「舞台は1964年の横浜で、主人公は16歳の横浜のインターナショナルスクールに通うクォーターの少年です。その少年が21歳の魔性の女性に恋をしていろいろと翻弄されるというストーリーになっています。当時の横浜はまだまだカオスで活気のある街だったので、その風俗やサブカルチャー的なものも紹介しつつ、インターナショナルスクールに行く人間の、一般の高校生とは全く違う世界を書きました」
------主人公はハリスさんご自身がモデルになっているんですか?
「僕がベースです。でもいろいろな意味でどんどん飛躍してフィクション的なキャラクターに変わってきましたね。僕のことを知ってる友人には『お前にそっくりだね』なんて言われるかもしれないけど(笑)。インターナショナルスクール生はダンスパーティに行ったり、アメリカ軍のベースの中にボウリングしに行ったり、そういったちょっと特殊な文化があったんです。当時は街を歩くと美空ひばりの歌が流れていたり三波春夫の『東京五輪音頭』が流れていたり、結構面白かったんですよ。そういった情景も描きつつ、どんどん書き進めてこの本ができ上がったって感じですね」
------初の長編小説とのことですが、書いてみていかがでしたか?
「書きながら迷うかなぁとか自信なくしちゃうかなぁって思ったんですけど、思いのほか楽しくて。今まではやったことを書いてきたけれど、フィクションって好き勝手書いていいんですよ。その自由さっていうのを初めて僕は体感して、こんなに楽しいならこれからずっとフィクションを書こうと今は思ってます。70にして僕は小説家になりました(笑)」
------素敵ですね。ところで、ハリスさんはいつ頃から本を読むようになったのですか?
「中学生の頃からですね。それ以前は漫画しか読まない少年で、中学のときにそれを見かねた友達がヘミングウエイの『武器よさらば』をくれたんです。当時まだ恋もしてないし、戦争体験なんてもちろんないんですけど、本の中で起こる話が本当に自分の話みたいに切実に迫ってくるんです。そのときに『あ、読書って自分のイマジネーションを使って行うものなんだ』って気が付いて、読書って面白いんだなと思ったんです。それからはまずヘミングウエイを読み漁りました」
------その後は主にどんな本を読んでいたのですか?
「ヘミングウエイと同じロストジェネレーション世代のスコット・フィッツジェラルドとかジェイムズ・ジョイスたちの本から始まって、そこからどんどん広がっていきました。古典をよく読んでいましたね。結構マセていたので、大学行くようになってからは六本木でお酒いっぱい飲んで、帰ってくるとドストエフスキーとかトルストイとかモーパッサンとかを読む変な青年でしたね(笑)」
------最近はどのくらいのペースで読んでいますか?
「じっくり読みたいので、一週間に一冊くらいですね。大体80パーセントが日本語の本で、20パーセントが洋書かな。僕は本当に読書中毒なんです。活字中毒でトイレの中でも読んでます。電車に乗るのが好きな理由も本を読めるからなので。小説はしょっちゅう読んでいますね」
------最近の小説で何かおすすめの本はありますか?
「島本理生さんの『ファースト・ラブ』です。ファーストラブというとラブストーリーに聞こえるんですけど、切ない恋愛小説でもありつつ、メインはミステリー調なんです。ある女性が自分の大学教授の父親を殺害してしまうところから話が始まるんです。主人公は彼女の自伝を書くために雇われた臨床心理士の『由紀さん』。彼女がその女性の深層心理の中に入っていくんですが、本当にこの人が殺したのかどうか、どういう心の傷を抱えていたのか、それが少しずつ判ってきます。それから、由紀さん自身も若いときに負った心の傷を抱えていたり、殺人を犯した女性の弁護にあたる男性も若いときに実はトラウマを負っていて。皆が受けた暴力だとか、そういった傷を背負っている人たちの話なんですね。かなり暗い話として始まるんですけども、それでも最終的には光が差し込む、なかなか読みごたえのある作品です」
------どんなところがお好きなんでしょうか?
「僕は自分でもセラピーをやっていて、セラピストとして以前働いていたんです。だから人の心の傷っていうのはどういう風に形成されていて、どういう風に解消していけばいいのかということに随分携わってきたんです。この本を読んでいると、『ああそうか、こういうところで癒えていくのかな』とか『あ、こういうところに実は本当のトラウマがあったのか』とか、そういったものが解き明かされていくプロセスが面白いですね」
------ありがとうございます。後編ではハリスさんの思い出の一冊などをご紹介します。お楽しみに!
<プロフィール>
ロバート・ハリス/1948年、横浜生まれ。高校時代から国内、海外をヒッチハイクで旅する。大学卒業後、東南アジア放浪を経てオーストラリアに渡り、16年滞在。シドニーでは書店兼画廊「エグザイルス」を経営する。また、テレビや映画などの製作スタッフも担当。帰国後、92年よりJ-WAVEのナビゲーターに。現在は作家としても活躍している。著書には『エグザイルス』『ワイルドサイドを歩け』『人生100のリスト』『英語なんて これだけ聴けて これだけ言えたら 世界はどこでも旅できる』などがあり、2018年9月には初の長編小説『JJ 横浜ダイアリーズ』を発刊した。