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滝本竜彦さんの『NHKにようこそ!』は、自分に「刺さりまくった」一冊------アノヒトの読書遍歴:コヤマヒデカズさん(後編)
ロックバンド「CIVILIAN」でボーカル&ギターを担当するコヤマヒデカズさん。すべて楽曲の作詞・作曲をコヤマさんが手掛けているのですが、実はこれまでに読んだ多くの作品の言葉の使い方や例え方が、歌詞作りにも少からず活かされているといいます。そんなコヤマさんに、前回に引き続いて日頃の読書生活についてお話を伺いました。
------最近読んだ本で印象に残っている一冊があればぜひ教えてください!
「辻村深月さんの『かがみの孤城』です。本屋大賞を受賞したときに気になって読んでみたんですが、この作品は僕が勝手に思う辻村深月という作家の小説を書くうえでの気持ちの変わりよう、変遷みたいなものがすごく見えたような気がしていて、印象に残っています」
------どんな内容になっているでしょうか?
「主人公は中学生の男女。そして彼らを取り巻く大人たちが登場するんですが、大人たちの世界と子どもたちの世界の2つの軸で進んでいきます。その中でぜひ注目してほしいのは、大人たちの描かれ方と子どもたちの描かれ方。ここに出てくる子どもたちはみんな不登校の子たちなんです。彼らは不思議な力でお城に導かれて、そのお城の謎解きをみんなでしていきます。子どもたちはそれぞれ関わっていくうちに、少しずつ助け合おうとしていくのですが......。そうやって助け合う子どもたちに対し、それを取り巻く両親だったり学校の先生や大人たちは、やっぱり歳をとって、良くも悪くも自分で自分の生活を何とかしている人たちです。つまり大人は大人で問題を抱えていて、誰にも相談できないというような、その描かれ方というものに、辻村さん自身の『大人観』とか『子ども観』のようなものがすごく出ているような気がするんです」
------本屋大賞受賞も納得という感じでしょうか?
「そうですね。でも意外と、僕もそうなんですけど、こういう有名になった本って逆に手を付けない人っていると思うんですよ。だからあえてご紹介したいんです。最後の最後までちゃんと救いがあるというか、読んで一片の曇りもなく、本当に救われる物語でした。なので、今リアルタイムで悩んでらっしゃる、小中高校生の方とか、それを通り越した大人であっても、本当に分け隔てなく感動を与えられるような素晴らしい作品でした」
------コヤマさんは、人と人、つまり人間関係やそのときの人の心情が描かれている作品が好きなんですね。
「ええ。『他人と上手く関われない人に捧げる救いの物語』というのが僕の中で気になったりするのですが、滝本竜彦さんの『NHKにようこそ!』という作品もまさにその一つです」
------どんな作品かぜひご紹介ください!
「この作品でいうNHKとは『日本引き籠り協会』のことでその略なんです。実は僕も20代半ばくらいのときに引き籠りを経験したんですよ。本当に外に出られなくて、ずっと家の中でベットから起き上がれなかったりとかというのがあったので、この滝本竜彦さんの『NHKにようこそ!』は、本当に刺さりまくったんです、自分の心に。もう読んでいて痛くてしょうがなかったですね(笑)」
------なるほど、主人公に共感した部分はありましたか?
「そうですね、基本的にこの話は、主人公がどうにかして引き籠りから脱しようとして、大学の友人とパソコンのエロゲを作ってみたりとか、ネットで仕入れて爆弾を作ってみたりとか、新興宗教の集会に行ってみたりとか、とにかく間違った方向に暴走しまくる話なんですよ。いちいちこの主人公のやることなすことがダメな方向に行っちゃって、逆にそれが笑えてくるというか、読みながら思わず主人公に突っ込みを入れたくなる話なんですよね。でもそういうブラックユーモアがたっぷり入っている裏側で、実は滝本さん自身も本当に引き籠りだった時期があったそうなんです。ちなみにこの作品はすごくテンポが良くて。スピード感があって、先が気になってすぐに読めてしまう作品なんです」
------主人公に対して放っておけないような感覚に陥りそうですね。
「僕も当時、自分がそんな感じだったので、ここに書かれている引き籠り特有の思考回路というか、行動だったりとか、そういうのがあまりにもリアル過ぎて、だから刺さっちゃったんですよね。あらゆる方面に暴走しながら精神にも体にもダメージを負って、でも最後にはちょっと救いがある、清々しい終わり方をする小説なんですけど。本当に爆発力のある、ネガティブさを爆発させたらこうなるんだなっていうような、引き籠りにとってのバイブルみたいな小説にある意味なり得るんじゃないかなと思うんです。滝本さんて本当に正直な人で、これを書き終えてから漫画化、アニメ化されてすごくヒットしたんですが、そのプレッシャーで次の作品が書けなくなっちゃったみたいで。だから再び引き籠りに戻ってしまうという(笑)。そこらへんも含めて僕は滝本さん大好きなんですよね。そういう滝本さんの、まさに代表作といえる作品だと思います」
------コヤマヒデカズさん、ありがとうございました!
<プロフィール>
コヤマヒデカズ こやまひでかず/東京都出身。ロックバンド「CIVILIAN」でボーカル&ギターを担当し、すべて楽曲の作詞・作曲を手掛ける。バンドメンバーである純市さん、有田清幸さんは専門学校時代の同級生。2016年7月にバンド名を現在のCIVILIANに改名し、2016年11月発売のシングル『愛/憎』でメジャーデビューを果たす。その後、多くの楽曲がTVアニメやドラマなどにタイアップされるなど、活躍を続ける。今年8月にはシングル「何度でも」をリリースした。