本屋大賞受賞なるか? 窪美澄の『晴天の迷いクジラ』

晴天の迷いクジラ
『晴天の迷いクジラ』
窪 美澄
新潮社
1,620円(税込)
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 今年で10回目となる本屋大賞。処女作にして候補作となった『世界から猫が消えたなら』の川村元気氏も話題ですが、一昨年の本屋大賞で2位となり、映画化もされた『ふがいない僕は空を見た』の著者・窪美澄さんにも注目が集まります。今回は、『晴天の迷いクジラ』で本屋大賞の候補となっています。

 本作は、彼女にフラれたばかりのデザイナー(24歳)と、女であることを捨ててがむしゃらに働いてきたデザイン会社社長(48歳)、母親のゆがんだ愛に振り回され、友の死をきっかけにリストカットに走った女子高生(16歳)の3人の物語です。

 自分の意思とは無関係に毎日に流されて、時には抵抗するも、結局は心を病み「死」にとりつかれてしまった主人公たち。他人が思うより「つらい」という言葉を発することは難しく、切羽詰まったところまでいかないと、悲鳴を上げられないという現実を突きつけてきます。ちょっと歯車が狂っただけで、抜け出せなくなり絶望を感じてしまうのは、日本という社会の病なのでしょうか? 

 物語はすすみ、湾に迷い込み、動けなくなったクジラが登場します。3人の前に姿をさらすことで、象徴的な存在として描かれていることは間違いありません。けれど、そのクジラをセンチメンタルなものとしてとらえないのが、作者らしいところ。さらにラストシーンのクジラを見れば、その意図が自ずとわかるような気がします。

 絶望の淵にいた人たちが希望を手にしたいと望むことが、いかにすばらしいか。読後感は思った以上に爽快です。

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