ついに「本屋大賞」受賞なるか? 宮部みゆき『ソロモンの偽証』
- 『ソロモンの偽証 第I部 事件』
- 宮部 みゆき
- 新潮社
- 1,944円(税込)
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宮部みゆきさんの5年ぶりのミステリー長編『ソロモンの偽証』が、2013年本屋大賞にノミネートされました。『理由』での直木賞受賞をはじめ、さまざまな賞を獲得しているミステリー小説界の大御所ですが、本書もすでに『このミステリーがすごい!大賞』『一個人別冊2012年最高に面白い本大賞』でそれぞれ、2位、1位を受賞しています。しかし、本屋大賞については今まで無冠。5年前にノミネートされた『名もなき毒』も惜しくも受賞を逃してしまいました。構想15年、連載9年、作家生活25年の集大成というこの大作で雪辱となるか、注目されるところです。
物語は1990年のクリスマスの朝、雪に埋もれた男子中学生の死体が発見されたことで始まります。警察は、前夜、学校の屋上から飛び降り自殺をしたものとして、捜査を早々に打ち切ります。しかし、不良グループが少年を屋上から突き落とすのを見たと記された告発状が学校等に届いたことによって、学校周辺は騒然としはじめます。ついには、告発状に関係しているらしい女子学生が車にはねられ死亡するという痛ましい事故が起こります。
クラスメイトはなぜ死んだのか? 自分たちの手で真相を明らかにするしか前へは進めないと、一人の女子中学生が立ち上がります。その手段として選ばれたのが学校内裁判です。裁判で証言するのは、自殺した学生の家族、告発状を書いたとされる学生、告発状で名指しされた不良グループ、担任教師など。証言からは、陰惨ないじめによる悲痛な叫び、家族の崩壊、教師をはじめとする利己主義な大人への幻滅...。さらにはクラスメイトに無関心だった中学生である自分たちの弱さがむき出しとなって、白日の下にさらされます。真実を知るための代償として、関係者の誰もの心が、一度はズタズタに傷つくのですが。
著者は以前インタビューで、本書の最後の仕上げ時に大津のいじめ自殺事件が起きたことを受け、「大津の学校の事件で勇気を持って発言した生徒さんたちのおかげで、私の書いたフィクションが100パーセントの作り物にはならなかった」と語り、中学生たちが自分たちの声を上げはじめたことに、いじめ問題解決の希望を抱いています。
まさに本書は、現代の社会問題を深く投影する物語であり、いじめ問題の本質をえぐることで、解決への希望をも導き出した物語だと言えます。そのうえで700ページ超の三部作という長さにも関わらず、一時も飽きさせないミステリーとしても完成しています。読後、あちこちに張り巡らされていた伏線が、衝撃の結末にピタリとはまったことを知り、この長い物語のすべてが必然だったことに驚嘆させられることでしょう。
はたして全国の読者の代表とも言える書店員が、本作をどう評価するのか、注目です。