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【我が人生のダブル・オサム】【アノヒトの読書遍歴】 織田哲郎さん(前編)

我が人生のダブル・オサム

 「ずっと活字中毒なんです。子供の頃から」
 
 織田哲郎さんは、生まれながらにして非常にどん欲なカツジストだ。学生時代は毎日何時間も本屋で立ち読み。大人になった今では、日がなコンビニで4〜5冊ゲットが習慣化している。たまに本屋に出掛け、紙袋いっぱいの本を両手に抱えて帰るのが至福だという。
 
 小説も漫画も、何もなければチラシやパンフでも。手当たり次第読むなかで、小学校5、6年の頃、衝撃の本に出会った。

 「手塚治虫さんの『火の鳥』、特に2巻『未来編』。感動しましたね、猛烈に。手塚さんは僕らの世代にとっては神ですから、もちろん他の作品も読んでましたけど、火の鳥は別格。ひとつの哲学というか宗教というか......この宇宙、この世界がどういうものであるのかということへの、一つの腑に落ちる回答がそこにあった。エンターテイメントとして感動したというのとはレベルの違う何かを与えてくれたんです。火の鳥未来編は、いまだに自分の基本の考え方になっている部分が多いですね」
 
 以来、新版が出版される度に買い直しているという織田さん。最初に手にした火の鳥は、読み潰してボロボロになっていると言う。その後、中学校に入った織田さんを魅了したのは、またもやオサムだった。

 「太宰治にどっぷりでした。最初に『斜陽』を読んで、ガーン!これだ!って。で、次に『人間失格』を買ってきて。その後は、本屋にある太宰治をひたすら全部買って、何度も何度も読みました」
 
 中2の時、お父様の仕事の都合で渡英する際も、カバンに入っていたのは太宰治。

 「イギリスにいる間は英語の勉強もしないといけないので、ヘミングウェイとかエドガー・アラン・ポーとか、英語の本も一生懸命読みました。でも勉強だと思って読んでるし、当然ちゃんとは読めないから、すごく面倒くさい作業だったんです。だから楽しみとして日本語の本も読みたくて、手元にあった太宰治をまた繰り返して読んでいましたね」
 
 不慣れな異国の地で、部屋にこもって太宰治。「精神衛生上いいことじゃない」けれど、没頭したのは"腑に落ちる"という感覚がたまらなかったから。

 「大人と話してても子供と話してても、なぜだかあまり共感を持てなかったんです。そんななかで、"腑に落ちた!"という感覚を何かに与えられると、そこにどっぷりハマっていく。今思えばそういうことだった気がします」

 2年間のイギリス生活を終え日本に戻った後は、高知の高校での寮生活。そこでも小説はよく読んだ。

 「一番好きだったのは福永武彦ですね。全部10回単位で読み返してる。あとは、吉行淳之介や渡辺淳一、五木寛之。筒井康隆も大好きだったな」
 
 これらの作家の共通項は、

 「まぁ暗い(笑)。筒井さんは別ですが。だいたいにおいて団塊の世代っぽいというんでしょうか。あの世代の書く本には、独特の"チャレンジして失敗していくナルシズム"というのがあって。その感じ、好きだったみたいですね」
 
 人とフィットするのがあまり得意じゃなかったからなのか、小説のなかにシンパシーを得る快感を求めたのかも知れないと、織田さんは言う。

 「通信簿には"軽薄"と書かれるような始終うるさいタイプだったけど、人とうまくフィットできてない感はずっと自分のなかにあって。非常に極端なところのある子供でしたね、今思えば」

 
 〜後編は、織田哲郎さんのトンデモ本愛が明かされます。お楽しみに!〜


織田哲郎(おだ・てつろう)
ミュージシャン、音楽プロデューサー。1958年、東京都生まれ。13歳で渡英し、中学時代をロンドンで過ごす。帰国後、高知での寮生活だった高校時代にバンドを組み、オリジナル曲の創作を開始。1978年からプロとして活動を始める。TUBEや大黒摩季、ZARDなどへの楽曲提供で数多くのミリオンセラーを生み出し、自身もソロ・アーティストとして発表した『いつまでも変わらぬ愛を』で大ヒットを記録した。日本を代表する音楽プロデューサー、ミュージシャンとして活躍し続けている

取材・文=根本美保子

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