悪の教典
- 『悪の教典 上』
- 貴志 祐介
- 文藝春秋
- 900円(税込)
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「この学校には化け物がいる」
世の中にはサイコパス(反社会性人格障害)と呼ばれる人々が存在します。特徴として、相手を思いやる心に欠けている、平気で嘘を付くなど。しかし一方で、口が達者で社交的といった側面も見られ、見破ることは容易ではないそうです。もし、こんな人物が閉鎖された学校という場所で、教師をしていたら......。
本作『悪の経典』の主人公・蓮実聖司は、生徒の間で不動の人気を誇る英語科教諭。職員からも信頼され、生徒指導も務めていました。誰も彼をサイコパス、ましてやシリアルキラー(連続殺人犯)と疑う人はいませんでした。しかし、ある事件をきっかけに蓮実は大量殺人に及び、徐々にその恐るべき正体が明るみになっていきます。
本書は殺人事件を扱ったミステリーのなかでも、際立って強烈な印象を与えます。それは、蓮見が殺人の只中にかますギャグのため。シリアスな場面で挿入される脈絡のない黒い笑いに、読者は慄然とした印象を受けるのです。
「笑いとホラーが近いということは多くの人が言っていること」と著者である貴志祐介氏がインタビューでその背景を語っています。また蓮実は、陽気になると、歌劇『三文オペラ』の「モリタート」(盗賊団のボスの冷酷さを歌った曲)という曲を口笛で吹くのですが、このオペラは、「悪人たちをパロディ化することで、この劇以上に現実社会が過酷なものであることを伝える」名作と評されています。こんなところにも作者の意図が隠されているのかもしれません。
本作は宝島社「このミステリーがすごい! 2011」国内部門で第1位を受賞。惜しくも受賞は逃しましたが、本年度の直木賞候補作品にも選ばれました。昨年の年末に放送された「王様のブランチ」では、優香が「今年ナンバー1、すでに来年もナンバー1の衝撃」と大絶賛しました。
あなたは、この衝撃に耐えられますか?