ネタ劇場

雨の日にこそ、観たくなる青春映画2本立て

残り少なそうな梅雨、家にこもって青春映画。けっこういいかもです。(選/伊藤匠)

雨のなかで出会い、雨期を通り抜けた2人の物語『言の葉の庭』

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『秒速5センチメートル』でも有名な新海誠監督作。監督自身が「雨は3人目のキャラクター」と言うほど、ほぼ全編が雨のシーンになっています。
雨の日の新宿御苑、靴職人になりたいという夢を持つ高校生の秋月孝雄は、庭園内の東屋で雪野百香里という女性に出会います。彼女の顔に覚えがあった孝雄が「以前に会ったことがあるか」と尋ねると、ある一つの短歌を口ずさみ、その場を去る雪野。その後も雨が降るたびに、自然と東屋へと足を向け、徐々に交流を深めていく2人。そんなある日、孝雄は雪野に「あなたの靴を作らせてくれないか」という頼みごとをします。
 本作で繰り返し登場するのが、2人が待ち合わせる新宿御苑。苑内の美しい緑と滴る雨水の描写は、実物を眺めているかのように美麗です。孝雄と雪野、それぞれが内に抱えた悩みや迷いと向き合っていく姿を、新海監督の作品の特徴でもある精緻な背景描写が彩ります。エンディングで流れる、秦基博によるカバー曲「Rain」の、物語とのシンクロ率は鳥肌ものです。

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静かな思春期の嵐のなかで、少女たちが得たもの『花とアリス』

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 雨が多く登場する作品ではありませんが、外で雨音が降る中で、耳をそばだてるように、学生時代に思いを馳せられるのが『花とアリス』です。同じ中学校、バレエ教室に通う幼馴染の花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)。ある日、アリスが好きになった高校生を見に連れて行かれた花は、隣にいた友人の宮本雅史(郭智博)に一目惚れ。宮本と同じ高校に入学した花は、彼が入っている落語研究会に入部します。そんなある時、宮本がガレージのシャッターに頭を強打する場面に遭遇した花は、意識が定かでない彼に「自分は宮本先輩に告白された」というウソをつき、彼女になることに成功。ひょんなウソから始まった2人の関係は、宮本が花のパソコンに入っていた大量の自分の画像を見つけたことから、こんがらがった様相を見せ始めます。
 花とアリスの、中高生っぽい地に足のついていない電車内での会話や、無邪気な奔放さからアリスが花の恋路に踏み入ってしまう所など、甘酸っぱいようで、とても危うい2人の少女の心模様。特に印象的なのが、降りしきる雨の中、アリスが踊り狂うシーンです。「こういう突拍子もない行動しちゃうよなぁ」と、自分の学生時代を思い出して、こそばゆくなりました。
 ほかにも、親友も巻き込んだ恋愛に悩む花が、土壇場で任された寄席の席でアリスにむけて話を披露するシーン。そして、ふとしたきっかけで芸能事務所にスカウトされたアリスが、物語の終盤、オーディションに臨む場面で、自分を解き放つようにバレエを舞い踊るシーンなど、胸に迫る情景が沢山あります。学生時代という雨期のような不安定な時期を経て、一つの階段をのぼった2人を見るうち、少し瑞々しくなった自分の心を感じられるはずです。

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