もやもやレビュー

説明が丁寧すぎることがアダに『タイム・ダイレイション 死のベッド』

タイム・ダイレイション-死のベッド-(字幕版)
『タイム・ダイレイション-死のベッド-(字幕版)』
ジェフ・マー,コリン・プライス,アリサ・キング,デニス・アンドレス,ジョージ・クリッサ
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 ホラーと過去改変SFを掛け合わせた本作は発想こそ面白かったものの、場面の切り替わりが多すぎて視聴にストレスがかかる。設定はひねっているし伏線の回収も丹念に描かれているだけにかえってアラが目立ってしまった。状況を分かりやすくするためだろうがもう少し演出で何とかできなかったのかと思わなくもない。B級映画としてかなり上澄みと思うが、それゆえに少しの粗が悪目立ちして没入感は得られなかった。

 内容は古来より人の生き血をすすり続けた処刑場の樹木がキングサイズベッドにされ、罪を犯した人間がその上に乗ると起きたままでも悪夢にうなされ殺害されるというお話。そのベッドに追い詰められた人間が警察に電話をすると、なぜか事件から2時間後に現場で捜査をしている刑事につながり――と、視聴者の興味をひくものになっている。B級映画を長らく視聴してすらすらとあらすじを書けたのは初めてかも知れないレベルで物語が破綻していない。

 作品は樹木が多くの人々が処刑されるシーンから始まり、スキンヘッドで鎖を体に巻いた半裸のおっさんに伐採されるシーンへ。そこからまた場面は飛び、モーテルで5人が変死したとの通報を受け現場に駆け付けた刑事のカーターが焼け焦げたベッドの上にあった携帯電話を発見。その電話から着信があり、応答すると事件の2時間前に焼死したサンディからのものだった。

 再び場面が変わり、サンディは友人のレンの誕生祝いでフレッド、ナンシーらとモーテルを訪れベッドの上ではしゃいでいた。するとフレッドが何かの幻覚に襲われベッドを降りるとその下に引きずり込まれ死亡。天井のガス管に飛びついたレンもベッドから生えた触手に腹を裂かれて死亡。偶然通りかかった男性も何者かに襲われ死亡と、テンポよく人が死んでいく。ここでサンディはフレッドが落としたスマートフォンを拾い上げ警察に通報すると先のカーターに繋がる。

 サンディがベッドに傷をつけるとカーターが見ているベッドにも傷が浮かび、サンディの話が真実と確信。ここでカーターのいる時間軸で変死した4人には人を殺めた犯罪歴があると判明する。カーターにそれを問われるとナンシーは昏睡していた母親を意識があると知りながら安楽死させたことを告白し、ベッドから飛び降り体の骨が砕けて死ぬ。

 場面がカーターの時間軸に切り替わり、過去を改変させるべくかつてモーテルで同様の死に方をした夫婦の生き残った妻を訪ねる。夫は幼児性愛者でかつての被害者が自殺したことがあることを知ったカーターは、事件の被害者はすべて罪に対する罰で死んだのではないかと推測する。

 またしても場面は切り替わりサンディの前にかつて銃乱射事件で自分をかばって亡くなった元婚約者の姿が。罪悪感がら元婚約者のもとへ向かおうとしたその時、カーターから説得されベッドから降りモーテルを去る。

 サンディが焼死しなかったことで火事は起きず、カーターの時間軸でも事件現場の様相が変わり、同僚に電話をかけると自分もその部屋にいるとのこと。同僚の時間軸には頭を撃ち抜かれたカーターの死体があると聞き、すべて悟り顔を上げるとかつて自身が射殺した無実の若者の姿が。
 その後、火災を免れたベッドは競売にかけられ老夫婦が落札するシーンでエンドロールへ。

 時間軸のずれに対して何ら説明はないが、そのまま押し通したことで「樹木の呪いか何かなのだろう」と思わせてくれるのでストレスはない。ただ、状況を詳しく理解させるために場面の切り替わりを多用したせいでするっと物語が入ってこない。多少説明を削ってでも勢いのまま話を進めたらもっと面白く鑑賞できただろうから残念でならない。やはりエンタメに勢いは必須なのだと再確認させてくれる1本だった。

(文/畑中雄也)

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