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お腹が鳴るレストランはじめて物語『デリシュ!』

デリシュ!
『デリシュ!』
エリック・ベナール,クリストフ・ロシニョン,フィリップ・ボエファール,エリック・ベナール,ニコラ・ブークリエフ,グレゴリー・ガドゥボワ,イザベル・カレ,バンジャマン・ラベルネ,ギヨーム・ドゥ・トンケデック
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孤独なグルメだって、皆で囲む会食だって、カジュアルなハンバーガーだって、フォーマルなコース料理だって、街にはさまざまなレストランと、そこにまつわる人々の物語が溢れている。今や、世界中の人にとってレストランがない人生なんて考えられないものだが、レストランにだって始まりがあり、それがない世の中もかつては存在していたのである。

「貴族が料理によって力を誇示していた18世紀。庶民は食べることに必死であり、外食などは稀であった。レストランはまだなかった。」映画の冒頭はこのメッセージからはじまる。というのは、フランスで最初にレストランを開いた料理人の奮闘を描く作品だから。

時代はフランス革命前夜の1789年。主人公のマンスロン(グレゴリー・ガドゥボワ)は公爵のお抱え料理人だったが、とある日、貴族が集まる食事会で問題を起こす。火種は「薄切りにしたジャガイモとスライスしたトリュフを重ねて生地で包み焼きしたパイ」。当時ジャガイモとトリュフは「悪魔の産物」と言われ家畜の餌にしかならないもの。クビを宣告されたマンスロンは失意に沈み、思春期の息子と共に実家に戻ることに。

料理人一貫でやってきたマンスロンなので、他のことができるわけでもない。ちょうど実家は旅程として使われる道中にあり、休憩場所としてちょうどよい位置。旅人に食事を提供しているうちに、当然のように料理人としての情熱を取り戻す。そう、知らぬ間に"レストラン"が誕生していたというわけなのである。さらに、料理を学びたいという女性を弟子にしたことも評価が高い。その頃の女性は厨房に入ることを許されていなかった。マンスロン、無意識ながらに、なかなかの意識改革の持ち主。

実際は誰がレストランをつくったのかは諸説あり、1782年にパリですでにレストランが開業されていたとか、スペインではそれよりも前に食堂があったという話もある。まぁ、そこまで深く考えなくとも、充分に味わい深い作品だと思う。エリック・ベルナール監督は18世紀後半の食材や調理法に徹底的にこだわったそうで、とにかく料理が美味しそう。あぁ、ふんだんに時間を使い、手間を惜しまない。デリシュ!な料理を食べに行きたい。

(文/峰典子)

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