もやもやレビュー

心臓がからだから飛び出そうになる『ミーン・ストリート』

ミーン・ストリート(字幕版)
『ミーン・ストリート(字幕版)』
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82歳にしていまだご健在のマーティン・スコセッシ監督。そんな彼がお得意なことといえば、張り詰めた空気感をつくり、心臓が飛び出る手前までこちらをハラハラさせることだ。

スコセッシ監督特有の緊張感は、30歳手前という若さでつくりあげた3作目『ミーン・ストリート』(1973)で、すでに滲み出ている。ここで手に汗を握らせるのは、若かりし頃のロバート・デニーロ演じるストーリーの中心物、ジョニー・ボーイ。ニューヨークにあるリトル・イタリーを徘徊しているロクデナシで、その名の通り、"ボーイ(ガキ)"っぷりがすごく、金遣いがだらしない。借金先は複数。借金取りに「金はあるのか」と迫られても「きっと返すサ」という反省ゼロの気軽さで毎回乗り切っている。今度こそ突き放してやる!と毎回のように誓いたくなる彼をかばおうとする親友で街のチンピラ、チャーリー(ハーベイ・カイテル)がいてこそ、彼はなんとか生き伸びている。しかしお金を返さないからにはなにも解決されず、ふたりはどんどんと追い詰められていく......。

緊張感をぞくぞくと感じるのはいつ殺されてもおかしくないジョニー・ボーイという存在にもあるが、カメラワークにもある。本作はアメリカ映画のなかでも、35ミリのカメラ(10キロ前後!)を手持ちで撮影されたはじめての映画の一つらしい。手持ちという選択は撮影監督のケント・L・ウェイクフォード氏いわくまさに不安を演出するためだったようで、カメラのぐらつきは心の安定までもをぐらつかせる。そして何といっても本作はスコセッシ監督が18歳から20歳のあいだに実際に交流を持っていた人物や出くわした場面(!)をもとにつくられたそうで、張り詰めた空気をここまで生々しく描けるのはなるほど自分の目で見て感じたことだからかと自然と腑に落ちる。そしていざこれが自分の人生だと想像すると、ギョッとする。ピリピリした空気感をなんとしてでも避けようとする人には向かない世界である。

(文/鈴木未来)

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