もやもやレビュー

寄り添うことの大切さ『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』

ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択 (字幕版)
『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択 (字幕版)』
クリステン・スチュワート,ミシェル・ウィリアムズ,ロザンナ・アークエット,ローラ・ダーン,Kelly Reichardt,Neil Kopp
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アメリカだと女性監督の割合は約15%、男性監督の割合は約85%らしい(2023年時点)。女性の手により語られるストーリーが限られているからこそ、よくよく探さないと女性の視点から、女性の生活や苦労を伝えるストーリーには出会いにくかったりもする。それに「女性の視点」といっても育った環境や国籍、地位によって、見えるものや感じることは変わってくる。だからこそ表現方法は何通りもあって当然だろう。ケリー・ライカート監督の『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016)では、やわらかく、繊細な描写が見られる。

モンタナ生まれの作家、マイリー・メロイの原作が題材の本作は、3つのストーリーをもとに構成されている。少々厄介な男性クライアントに振り回される女性弁護士の話、自然が恵んだ広大な土地に、マイホームを建てることで頭がいっぱいな女性の話、たまたま受講した夜間学校の女性講師に想いを寄せる牧場暮らしの女性の話......とストーリーごとに主人公が入れ替わり、淡々と彼女たちの生活を描き出す。

この作品に出てくる女性たちは、決して境遇がいいわけでも特別かっこいいわけでもない。それでもどこか魅力的なのは、どれだけウンザリしていたとしても、がっかりしていたとしても、なんとか思いやりを絞り出せる人たちだからかもしれない。たとえばそれは相手の気配りに対してありがとうと言うことだったり、優先すべきことを一旦横に置いて、ケアが必要な人を支えることだったりする。聞こえは地味だが、ささやかな言動で救われる人もいる。そして弱っているときほど、そういうことができていないことを思い出す。自分のことで必死になりがちななかで、他者とどう関わっていきたいか、関わっていけるのか、どこまで相手に寄り添えるのか、寄り添いたいのか......何を押し付けるわけでもないが、そんなことをさまざまな角度からそっと問いかけてくるような作品だった。

(文/鈴木未来)

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