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【無観客! 誰も観ない映画祭】第26回 『すてごろ 梶原三兄弟激動昭和史』

すてごろ~梶原兄弟激動昭和史 [DVD]
『すてごろ~梶原兄弟激動昭和史 [DVD]』
哀川翔. 奥田瑛二.真樹日佐夫.赤井英和.中山忍.内田裕也.松方弘樹,光石冨士朗
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『すてごろ 梶原三兄弟激動昭和史』
2003年 配給ジーピー・ミュージアム、リベロ 105分
監督/光石冨士朗
脚本/真樹日佐夫
出演/奥田瑛二、哀川翔、真樹日佐夫、松方弘樹、内田裕也、赤井英和、國村隼、力也、浅草キッドほか

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『週刊少年マガジン』で連載されていた梶原一騎原作のスポ根劇画、『巨人の星』『タイガーマスク』『あしたのジョー』『空手バカ一代』。日本中の男子が感化され、野球部に入る者、ボクシングジムや空手道場に入門者が殺到、プロレスごっこによる怪我人も続出しました。筆者も例外ではなく、それらを全部かじりました(笑)。そんな我々に衝撃を与えたのが、1983年の梶原一騎逮捕報道でした。講談社の社員に対する暴行傷害、さらに暴力団関係者を使って脅迫した「アントニアオ猪木監禁事件」「赤坂クラブホステス暴行未遂事件」と余罪も発覚しました。ピュアな主人公による気高いストーリーを書く梶原一騎が「こんな凶悪な人だったなんて......」と大いにショックを受けた我々ですが、だからといってファン離れすることなく、何度読み返しても「梶原一騎は天才」という評価に変わりなく現在に至っているのです。

 さて梶原一騎の実弟・真樹日佐夫も、はやり人気作家でした。担任教師をレイプし、敵対者の睾丸を木刀で割る(トラウマ!)ニヒルな不良高校生を主人公にした『ワル』(画・影丸穣也)。または悪役レスラーにスポットを当てた『プロレス悪役物語』(画・一峰大二)など、当時の少年誌には珍しいアンチヒーローを得意としていました。そのルックスは眼光鋭い強面イケメンにして、極真空手の師範代も務める文武両道の文士でした。

 そんな二人(三男・日佐志はチョイ役)の半生を描いた『すてごろ 梶原三兄弟激動昭和史』は、真樹日佐夫の著書『兄貴 梶原一騎の夢の残骸』と『すてごろ懺悔 あばよ、青春』を下敷きにした実録映画で、「すてごろ」とは「素手によるゴロマキ(喧嘩)」という意味の隠語です。そして梶原一騎に奥田瑛二真樹日佐夫に哀川翔という驚きのキャスティング。これは観たくなりますね。

 梶原一騎、本名・高森朝樹。真樹日佐夫、本名・高森真土(まつち)。冒頭では朝樹と真土による喧嘩三昧の少年期、鑑別所での生活が描かれます。『あしたのジョー』での矢吹丈の非行ぶりや少年院描写は、こうしたリアルな実体験が生かされているのです。まず朝樹は鑑別所時代の恋人の姓を付けたペンネームの梶原一騎で文壇デビューし、1961年に『東京中日スポーツ』で『力道山物語』を連載。なんと下宿先に、力道山本人から直接お礼の電話がかかってくるほど好評を得ました。

 そんな矢先、彼の下宿を金髪ロン毛の怪しい人影が見上げています。喧嘩で恨みを買っての刺客でしょうか。すると「梶原先生ですね」と部屋を訪ねてきた怪人は、『週刊少年マガジン』初代編集長の牧野武朗でした。「あなたが鬼の編集長と評判の」と驚く梶原ですが、そこに立っていたのはロックンローラーそのまんまの内田裕也! 牧野武朗は金髪ロン毛の怪人物ではありません(笑)。裕也さんのアイディアというか独断でしょうか。

 やがて梶原が『週刊少年マガジン』で力道山の弟子がプロレスラーとして活躍する『チャンピオン太』(画・吉田竜夫)をヒットさせると、売上部数を飛躍的に伸ばした三代目の敏腕編集長・内田(ややこしいな)勝が、梶原に歴史的な執筆依頼をします。國村隼が演じる内田は、梶原がリスペクトする昭和初期の人気少年小説家・佐藤紅緑を引き合いに「少年マガジンの佐藤紅緑になって下さい」。これが殺し文句となり、ヤル気満々の梶原は内田と夜空の星を見上げながら新作の構想を浮かべます。『巨人の星』誕生の瞬間でした。

 一方、弟の真土は梶原が三兄弟の本名から一文字ずつ出して命名した「真樹日佐夫」をペンネームに、裏社会を告発するトップ屋(ルポライター)と作家の二足の草鞋を履いていました。喧嘩師のヤクザ幹部(人気プロボクサーから俳優に転身した赤井英和)との壮絶なすてごろ。暴力団の事務所に堂々と乗り込み「(悪事を)書かせてもらうよ」と宣誓し、「ここからタダで出ていけると思っているのか」と凄まれても腕と度胸で切り抜けます(ビビッている組員は浅草キッド)。夜道を歩いていれば殺し屋に襲われるなど、日の当たる道を歩く兄を陽とすれば、弟はまさに陰でした。

 やがて1971年、梶原は『空手バカ一代』の執筆を始めます。マガジン読者は、牛や熊と戦い世界中の格闘家を倒していく実在する超人・大山倍達に驚愕します。極真空手の道場に入門者が押し寄せ、館長室では大山館長と梶原兄弟が「盛況ですなあ~」などと雑談しています。が、なんと大山館長役は真樹先生ご本人! 全員グラサンかけて怖いったらありゃしません(汗)。ここで劇中の強烈エピソードを2本紹介しておきます。

 高級クラブで飲んでいた梶原兄弟は、酔って暴れホステスに悪さしているプロレスラーのキラー・バディ・オースチン相手に無謀にもすてごろを始めます。リングで二人殺したという触れ込み(嘘です)のアブナイ奴ですが、よく見るとオースチン役は金髪に染めた安岡力也でした。もう1本は、真樹の編プロ「マキ・プロダクション」でのトラブル。週刊誌の劇画で壊滅を描いた暴力団と同じ名称の組が大阪に実在し、真樹は組事務所に呼び出されます。これを聞いた大山館長は、極真会館最高相談役の柳川次郎(松方弘樹)に話をつけてもらいます。柳川次郎とは、山口組傘下の「殺しの軍団」と怖れられていた柳川組の初代組長でした。......どちらも怖い話ですね。もちろん実話です。

 時は流れ、懲役2年の有罪判決を受け名声を失墜させた梶原は、暴飲暴食から病魔に蝕まれます。クルーザーの甲板で椅子に腰掛けた梶原は、真樹に「俺はそこそこ、いいアニキだったろう」と言葉を投げかけ、『あしたのジョー』最終回の矢吹丈と同じポーズで目を閉じます。実際の梶原は病室で逝去し(1987年、享年50歳)、実は船上で倒れたのは弟の方でした。真樹は逗子マリーナに停泊してある自家用ヨットに乗船しようとした際に急性肺炎で倒れ、そのまま永眠したのです(2012年、享年71歳)。ラストシーンは、梶原兄弟が肩で風を切って往来を歩いていきます。まだ兄弟の作品を読んでいない若い読者は、ぜひ昭和スポ根劇画で描かれた「男気」に触れてみてください。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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