もやもやレビュー

認知症で現実を見失い始める『ファーザー』

ファーザー(字幕版)
『ファーザー(字幕版)』
アンソニー・ホプキンス,オリヴィア・コールマン,マーク・ゲイティス,イモージェン・プーツ,ルーファス・シーウェル,オリヴィア・ウィリアムズ,フロリアン・ゼレール,クリストファー・ハンプトン,フロリアン・ゼレール
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 認知能力が低下し、普段の生活に支障が出てくる認知症。筆者の祖父も認知症を患い、名前を忘れたり、同じことを何度も聞いたりなどの症状が目立っていました。映画『ファーザー』では名優アンソニー・ホプキンスが認知症を患い、現実を見失っていく男性を演じています。ちなみに彼が演じる役の名前もアンソニーで、アンソニー本人と生年月日も同じなんです。

 自分が住むアパートをこよなく愛するアンソニー。彼のもとへ、娘のアン(オリヴィア・コールマン)が訪問してきます。彼女は、新しくできた恋人と一緒に暮らすためにロンドンからパリに引っ越すと告げます。突然のこの会話に戸惑ったアンソニー、キッチンへ向かい、そこから出てくると、なんと見知らぬ男が自分のアパートにいて、ソファで寛いでいるのです。彼に「誰だ?」と聞くと、なんとアンの夫だと主張。さらに、このアパートはアンソニーのものではなく、自分達のものだと主張され、さらに困惑。自分のアパートを乗っ取ろうとしているのでは......?と、アンソニーは娘アンと夫に激怒して取り乱します。

 登場人物が他の部屋にいって戻ってくると全く別人になっていたり、朝だと思ったらもう夜になっていたり、同じことを何度も経験したり......。アンソニー視点で描かれた本作では、見ている私たちも何が何だかわからなく混乱してしまいます。ああ、これが認知症なのか、とまるで疑似体験をしているかのよう。終盤にアンソニーが見つけた真実に、涙が止まりませんでした。

 認知症の人の世話をしていると、「同じことを何度も言ってくる」「頑固になっている」とかなりの困難が待ち受けていて、何度もギブアップしそうになることもあると思います。しかし、認知症の人の立場に立って物事を考えるということはなかなか難しいもの。しかし、本作ではそれが可能に。認知症の人が抱える不安や恐怖などをそのまま体験できる本作は、身の回りに認知症の人がいる人にぜひ見てほしいと思いました。ちなみに本作でアンソニー・ホプキンスはアカデミー賞を受賞。心を揺さぶられる本作、ハンカチは必須です。

(文/トキエス)

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