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【無観客! 誰も観ない映画祭】第13回『アタック・オブ・ザ・キラートマト』

アタック・オブ・ザ・キラートマト [Blu-ray]
『アタック・オブ・ザ・キラートマト [Blu-ray]』
デヴィッド・ミラー,シャロン・ミラー,ジョン・デ・ベロ
キングレコード
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『アタック・オブ・ザ・キラートマト』
1978年・米・87分
監督/ジョン・デ・ベロ
脚本/コスタ・ディロン、スティーヴ・ピース、ジョン・デ・ベロ
出演/デヴィッド・ミラー、ジョージ・ウィルソン、シャロン・テイラー、アーニー・メイヤース、ジャック・ライリーほか
原題『Attack of the Killer Tomatoes!』

***

 1980年代初頭、誰でも気軽にオウチで映画鑑賞を楽しめるレンタルビデオが爆発的に普及し、日本で観られなかった作品が大量にビデオ化されました。その際、大ブームになったスプラッター&ホラー映画の陰で思いもよらない現象が起きました。既にアメリカのコアな映画マニアの間で楽しまれていたバカ映画、B級C級にも及ばないZ級映画といった類の低予算映画が、ようやく日本でも持てはやされるようになったのです。もともとサブカル好きな日本人、そういった高度な感性(敢えて言います)の素養はあったわけで、ジワジワと来る、でも来ない人には来ない特殊な面白さにハマった好事家の間で認知度を上げていきました。

 代表作として、ゴリラの着ぐるみに宇宙ヘルメットを被った宇宙人が攻めてくる『ロボット・モンスター』(53年)やエド・ウッド監督の『死霊の盆踊り』(65年)といったところですが、この『アタック・オブ・ザ・キラートマト』も東北新社の珍作専門レーベル「シネマランド」からビデオリリースされるや否や、たちまちZ級映画の頂点(底辺?)に登り詰めました。

アタック・オブ・ザ・キラートマト(初版).jpg『アタック・オブ・ザ・キラートマト』初版のビデオジャケット(筆者私物)

 冒頭でこんな字幕が流れます。「1963年、アルフレッド・ヒッチコック監督の『鳥』が公開された時、鳥の大群が人々を襲うという内容を人々は嘲笑った。しかし1975年の秋、ケンタッキー州ホプキンスヴィルで700万羽根の黒い鳥が実際に市民を襲った時、もはや人々は笑わなかった......」。これから見せる映画も笑い事ではないぞ、と言いたげな導入部。全米で謎の連続殺人事件が起こり、現場から被害者の血痕ではなくトマトジュースが検出されます。アメリカ合衆国の農務省で品種改良中のトマトが突然凶暴になり、人々を襲い始めたのです。......いや、笑わずにいられませんよ!

 政府はこれを隠蔽し、農務省の試験農場で軍による殺人トマト殲滅作戦が行われますが、奴らにはあらゆる火器が通用しません。ちなみに殺人トマトと兵士の戦いはどんな風かというと、スタッフが地面にコロコロ転がしたトマトを兵士達がバンバンと撃っているだけです。殺害シーンも噛んだりとかの攻撃描写は一切なく、トマトに迫られた人が悲鳴を上げ、「あ、死んだんだな」と観客に思わせるだけ。低予算映画の鑑みたいな脱・特撮手法です。

 そんな低予算作品にしては、この「州軍VS殺人トマト」ではトンデモないシーンが観られます。戦闘の真っ只中、唐突にヘリコプターが木の葉のようにクルクル旋回しながらフレームインしてきて、「ガシャーン!」と墜落して炎上したのです。「おお、序盤から大迫力アクション! 意外と金掛けていますなあ~」と思いきや、これ撮影中に偶然発生した本物の事故でした! 搭乗者の安否が問われる結構な墜落ですが、何とジョン・デ・ベロ監督はこの事故映像を殺人トマトの攻撃としてそのまま劇中で採用(汗)。「撮影中にパイロットが死亡」というキャッチコピーで宣伝したのです。幸いパイロットは無事だったようですが、中々の商魂たくましさですね。

 仕方なくホワイトハウスは、FIA(って何?)の下っ端捜査官メイスン・ディクソンを、ガラクタの変人ばかりを4名集めた「対トマト特殊捜査チーム」のリーダーに据え、国民にヤル気だけは見せておこうと考えます。FIA......調べても出てきません。それもそのはず、FBIとCIAの造語でした。ちなみにアメリカ人ならメイスン・ディクソンという名を聞けば「ハハーン」となるようです。合衆国の北部と南部を隔てる境界線を、測量者のチャールズ・メイソンとジェレマイヤ・ディクソンにちなんで「メイスン・ディクソン線」というそうです。

 さて、連邦議会上院のジイサン議員達が、対殺人トマト用サイボーグ「ブルース」を日本人科学者に開発させますが、片足しか強化されておらず性能テストの段階でお払い箱。「対トマト特殊捜査チーム」も殺人トマトを倒す事ができず全員殉職します。そして殺人トマトは徐々に巨大化していき、なんと元はプチトマトだった驚愕の事実も判明。やがて運動会の玉転がし並みに成長した殺人トマト(画面下方に見えている台車)は、各地の市街戦で州軍を退け勢力を伸ばしていきます。

 殺人トマトを手懐け国家転覆を謀ろうと企むトマト栽培が趣味のホワイトハウス報道官、メイスンを追っかけ回す新聞記者でヒロインのロワス(スタイル抜群だが、顔面偏差値40)などが絡んで、物語は佳境へと入っていきます。解決のキーワードは、音痴ながら大ヒット中の流行歌『思春期の恋』。ティム・バートン監督『マーズ・アタック!』(98年)の火星人退治の元ネタになった(らしい)と聞けば、その結末は想像がつくでしょう。

 作品は口コミで人気が出て、下積み時代のジョージ・クルーニー主演『リターン・オブ・ザ・キラートマト』(88年)、『キラートマト 決戦は金曜日』(90年)、『キラートマト 赤いトマトソースの伝説』(91年)と続編が制作され、1995年に新撮影と未公開シーンで再編集されたディレクターズ・カット版(ジョン・デ・ベロ監督自らストーリーテラーで登場)が第48回カンヌ国際映画祭で上映されました。日本でも「完璧版」と謳われ劇場初公開を果たし、「"最低・最悪映画の王者(野菜部門)"遂に登場!」というキャッチコピーで日本コロムビアからビデオ化されたのでした。

アタック・オブ・ザ・キラートマト完璧版.jpg『アタック・オブ・ザ・キラートマト』初版のビデオジャケット(筆者私物)

(文/シーサーペン太)

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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