もやもやレビュー

心が芯からあったまる『ル・アーヴルの靴磨き』

ル・アーヴルの靴みがき(字幕版)
『ル・アーヴルの靴みがき(字幕版)』
アンドレ・ウィルム,カティ・オウティネン,ジャン=ピエール・ダルッサン,ジャン=ピエール・レオー,アキ・カウリスマキ,アキ・カウリスマキ
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夜遅くに帰宅して、ちらりと覗いた犬小屋で幼い密航者が眠っていたらどうするだろう。アキ・カウリスマキ監督の『ル・アーヴルの靴磨き』(2011年)では、「まず彼の事情を聞かねば」という姿勢を持つ白髪混じりのマルセル(アンドレ・ウィルム)を主人公に、ストーリーが動き出す。

マルセルが自宅の犬小屋に見つけたのは、海上コンテナに隠れてアフリカからフランスのル・アーヴルにやってきた少年、イドリッサ(ブロンダン・ミゲル)。彼は現在逃走中で、警察に追われている。面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ、とイドリッサを追い出す人もいそうだが、マルセルはまずイドリッサに行き先を聞く。そうして母親が住むロンドンを目指していることを知ると、そこに無事たどり着けるよう段取りを組み始める。

警察に見つからないようにとマルセルが助けを求めるのは近所の仲間たち。いつもなら靴を磨いて生活するマルセルの借金ぶりに呆れているものの、八百屋の店主は売れ残りを分けてくれたり、パン屋のオーナーはイドリッサを預かってくれたり......いざとなるとちゃんと助けてくれる仲間のやさしさに思わず胸が熱くなる。ちなみにイドリッサの救出だけで手一杯になりそうだが、実はマルセルの親愛なる妻(カティ・オウティネン)は不治の病が発覚し、この一大事の間は終始入院している。見ず知らずの少年を助けている場合か......!そうツッコむのは、鑑賞するまでとっておいてほしい。心を芯から温めたいときにおすすめの一本だ。

(文/鈴木未来)

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