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【無観客! 誰も観ない映画祭#01】追悼・千葉真一~その1『宇宙快速船』

宇宙快速船
『宇宙快速船』
千葉真一,水上竜子,小宮光江,江原真二郎,森田新,太田浩児
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 今年8月19日、新型コロナウィルスによる肺炎のため、不世出のアクションスター・千葉真一がこの世を去りました。ニュースやワイドショーで追悼特集を散々やっていましたが、紹介されるフィルモグラフィーは『キイハンター』、『仁義なき戦い』シリーズ、空手映画と柳生十兵衛役といった定番の作品ばかりでした。一般大衆向けの番組なので仕方ないですが、全国の千葉真一信者には「アレもコレも紹介されていない」と不満タラタラだった事でしょう。そこで当コラムのスタートは、テレビで触れてもらえなかった千葉真一主演作品を厳選してシリーズでお送りします。

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『宇宙快速船』
1961年・ニュー東映・75分
監督/太田浩児
脚本/森田新
主演/千葉真一、水上竜子、松本克平、江原眞二郎ほか

 ウルトラマン誕生の遥か10年前、1956年に米国テレビドラマ『スーパーマン』(53~57年)が日本でも放送を開始し空前のヒットとなりました。これには日本映画界もこぞって「和製スーパーマン」の製作に着手し、宇津井健のモッコリタイツでカルト化した新東宝の『鋼鉄の巨人 スーパージャイアンツ』(57年)を皮切りに、東映はまずテレビドラマにした『月光仮面』(58~59年)、『遊星王子』(58~59年、主演・梅宮辰夫!)、『七色仮面』(59~60年)といった3作品を、放送に並行する形で順次劇場用に映画化していきました。

 さらに東映は現代劇に特化した第二東映(のちニュー東映)を新設し、松下電器産業(現・パナソニック)単独スポンサーによるテレビ番組『ナショナルキッド』(61~62年)を製作。ここではそれをそのまま映画化せず、オリジナルヒーローのアイアン・シャープに刷新しました。ただしタイトルは彼が乗るアイアン・シャープ号を表す『宇宙快速船』という、和製スーパーマン映画としては変則的な題名になりました。宇宙と科学をテーマにした『ナショナルキッド』を土台にしたからでしょうが、個人的には『アイアン・シャープ』でよかったのではと思っちゃいます。

 そのアイアン・シャープに抜擢されたのが、すでに『新・七色仮面』(60年)で変身ヒーローデビューしていた千葉ちゃん(もう、我々が子供時代の愛称で呼ばせてください)。元は体操選手だけに、擬闘は他の和製スーパーマン俳優達とは一線を画します。両足を上げたジャンプで2人を同時に蹴り倒すダブルキックなんて、千葉ちゃんしかできない芸当でしょう。彼が扮する立花真一は、宇宙船を開発する谷川博士の研究所に勤め、チンピラに絡まれても青ざめているような、子供達の間では頼りないアンチャンとして描かれます。

 物語は、地球侵略を狙う海王星人の攻撃を、谷川研究所が科学力で防御する攻防戦が描かれます。冒頭で子供達が「スポーツカーをカッコよく駆るヒーローがいたら何て呼ぼうか」と案を出し合います。「ハヤブサ太郎!」に「もっとスマートなのないかなあ」。「ジェットタイガーは?」には「ピンとこないね。古いなあ」。いや、それイイネ! 後年『ゴジラ対メガロ』(73年)でジェットジャガーという巨大ロボットが登場し、現在も人気があるため今年放送されたアニメ版ゴジラ『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』ではメインメカとして再登場を果たしていたのです。結局は谷川博士の息子が「これだ! アイアン・シャープ!」と強引に決めてしまい、そのタイミングでオープニングタイトルが出るのですが、先述したように『アイアン・シャープ』ではなく『宇宙快速船』。だから子供が叫んだソレでええねんって(笑)。

 子供達は、原っぱでKKK(クー・クラックス・クラン)みたいな頭頂が尖がったヘルメットを被った海王星人の集団に襲われます。そこへ空からスーパーカーに乗ったヒーローが現れ、バッタバッタと海王星人を倒していきます。子供達は「わーいわーい、オジサンありがとう~」と謎のヒーローに駆け寄ります。昔のヒーローは二十歳そこそこでも「オジサン」と呼ばれていたのです。「ねえ、オジサンの名前は?」と訊かれて彼はこう答えます。「君達の方がよく知っているのでは?」。立花は子供達の会話をどこかで聞いていたのか、すんなりアイアン・シャープを採用してくれます。

 さて海王星人はリベンジにトンデモないことをやってくれます。茨城県の西海村原発が破壊されキノコ雲が上がり(汗)、死者84名、重傷者260名という大惨事になります。さらにアメリカでも原子炉も爆破され、疑心暗鬼になった米ソ間に緊張が走り第三次世界大戦の危機が高まります。

 そしてクライマックスは海王星宇宙船団による東京大空襲。ミサイルでオフィス街や東京タワーが破壊され、某政党本部も国会議事堂もドッカンドッカン気持ちよく吹っ飛んでいきます。東京が火の海となり瓦礫の山を築いていくその時、宇宙快速船が颯爽と現れ華麗な空中戦を展開します。おそらく『スター・ウォーズ』を初めて観た時と同じような驚きと興奮を、当時の観客も感じたに違いありません。時代のトップを走っていた円谷東宝と遜色ない見事な特撮技術を見せてくれたのです。特撮を担当したのは、のちに『悪魔くん』、『ジャイアントロボ』、『仮面の忍者赤影』、『秘密戦隊ゴレンジャー』といった東映の名作児童番組を手掛ける特撮界の巨匠・矢島信男だったのです(他社作品も多数)。そしてアイアン・シャープと宇宙快速船のデザインは、ウルトラマンやウルトラセブンの意匠を生み出した天才・成田亨と、こちらもレジェンドでした。

 それにしても、アイアン・シャープの出自が謎すぎです。劇中で立花がどういう経緯でアイアン・シャープになったのか全く語られないのです。名前も決めてなかったし(笑)。雰囲気的には天才科学者で格闘技にも長けた立花が、密かにスーパーカーを開発してボランティア精神で侵略者と戦うという感じですかね。

 ヒロインにも触れておきましょう。博士の娘・谷川洋子役は、デビュー2作目の水上竜子。朗らかで清楚なお嬢さんを演じていましたが、当時の東映社長が本名・山田三千代に付けた芸名はなぜか竜子(りゅうこ)。筆者が物心付いた時には『ウルトラセブン』(67年)ではミニスカギャルに化けたゴドラ星人を演じ、『人造人間キカイダー』(72年)では悪のロボット・シルバーキャットともはや人間ではなく、刑事ドラマや時代劇でも竜子の名に相応しい強面の悪女役が圧倒的に多く、とても洋子役を演じた娘と同一人物とは思えないほど変貌を遂げていました......。

 ちなみにスタッフの中に大物を発見しました。助監督の佐藤純彌は東映退社後に大ブレークして、『君よ憤怒の河を渉れ』(76年)、『人間の証明』(77年)、日本アカデミー賞最優秀監督賞・最優秀作品賞『敦煌』(88年)などの大作を次々と手掛けた巨匠に上り詰めます。ただし、『北京原人 Who are you?』(97年)は伝説的な大失敗作でしたが(笑)。

(文/シーサーペン太)

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酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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