シャイな人ほど共感できる?『チャンス』
- 『チャンス 30周年記念版 [Blu-ray]』
- ピーター・セラーズ,シャーリー・マクレーン,メルヴィン・ダグラス,ハル・アシュビー
- ワーナー・ホーム・ビデオ
- >> Amazon.co.jp
- >> HMV&BOOKS
ハル・アシュビー監督『チャンス』(1979年)の主人公、チャンス(ピーター・セラーズ)は、生まれてこの方一歩も家から出たことがない、推定50代の男性。自称庭師の彼が人生でしてきたことといえば、庭のお手入れとテレビを見ること。たったそれだけである。そんな彼がいつしか米大統領をアッと言わせて、テレビを見る側から出演する側に移行し、瞬く間に国民的スターという座を手に入れてしまう。人生の転機ともいえそうだが、彼はそこに至るまでまるでなんにもしていない。
ことの発端は、家主の他界。たちどころに家を追い出されたチャンスは、のんびりと彷徨っていたニューヨークの街で財政界の実力者、ベンジャミン・ランド(メルヴィン・ダグラス)の嫁(シャーリー・マクレーン)に拾われる。ここから話はどんどん変な方向に進んでいく。
チャンスは思ったこと、起きたことを包み隠さず話しているだけなのに、あまりにも発言が単純なせいか、「もっと深い意味があるのだろう」と毎回変に深読みされてしまう。おかげで「実業家である」「8カ国語しゃべれる」「医学と法律の学位を取得している」「FBIのOBかもしれない」といつしかスゴイ人物になってしまう(全部誤解)。
誤解された自分がなかなか出来のイイ男だから、それをいいように使おうとしてるんじゃ......なんて心配は無用。そんな目的は一切ないのだが、彼は誤解を解こうともしない。そうして周りは彼(ほとんど誤解の塊)をますます好きになっていく......と、とにかくおかしな話なのだが、物静かな人にとっては特に、どこかしら共感できる部分もある気がする。
(文/鈴木未来)