もやもやレビュー

アルチザンが紡ぐ世界を覗く『ハート&クラフト』

ハート&クラフト [DVD]
『ハート&クラフト [DVD]』
ドキュメンタリー映画,フレデリック・ラフォン,イザベル・デュピュイ=シャヴァナ
紀伊國屋書店
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ブランド物に明るくない人でも、注文から数年待ちだというエルメスのバーキンについては耳にしたことがあるだろう。このバッグは1983年のとある日、ジェーン・バーキンとエルメスの5代目社長が飛行機に乗り合わせ、欲しいバッグについて雑談を交わしたことが生まれた。馬具から生まれ、世界中のファンを狂喜乱舞させるエルメス。一体どんなブランドなのだろう。

『ハート&クラフト』は、2011年ジャーナリストであるイザベル・デュビュイ=シャヴァナの持ち込み企画によって生まれた。イザベルはたまたま出会った職人を撮影しようとエルメスに問い合わせたところ、それならば、革・シルク・クリスタル・ジュエリーの職人に絞って映画を撮らないかと返答があったとか。「意外なことに、これまでエルメスというメゾンに関する記録映画がほとんどなかったからでしょう」。

エルメスの工房はフランス国内にたくさんあるが、あくまでも「工房」と名乗ることができるよう、それぞれが250人を超えることがないよう配置されているという。その行程が想像以上に手仕事であることに驚かされる。皮の裁断以外は、ひとりの職人がバッグを最初から最後まで作り、完成とともに自分の刻印を入れる。技術、プライド、愛情全てが揃ってこそ、エルメスのアルチザン(職人)なのである。

この映画の中で、商品の販売シーンはおろか、お金にまつわる台詞は一切含まれていない。あくまでも職人にフォーカスをあてているから、縁がないハイブランドという認識から遠のき、どんな人でも楽しめる作品になっている。きっと「いつか、自分も」と思うだろう。

(文/峰典子)

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