もやもやレビュー

凡人の挫折が心を揺さぶる『がんばっていきまっしょい』

がんばっていきまっしょい コレクターズ・エディション [DVD]
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 思春期の多感なころ熱中した部活を題材にした映画を批評することは難しい。内容がどうであれ、否応なく過去を想起させるため、登場人物への自己投影が過剰になる。視聴者という第三者の立場でなく、かなり当事者側に寄ってしまうためだろう。思い入れが強い対象を素材にした作品は、良し悪しを抜きにして心に刺さる。

 筆者にとっては本作がそれだ。高校時代、ボート部に所属していたが共学のくせに野郎だらけの環境だったので、本作で描かれる淡い恋心なんてものは抱きようもなかった。まぁ、艇庫は100年を超える歴史の中、諸先輩方が延々と集めたエロ本やAVで足の踏み場もなかったため、女の部員がいたらセクハラ騒ぎになっただろうが......。

 男だらけのボート部に主人公の篠村悦子(田中麗奈)が入部し、5人の仲間を集め奮闘するという物語。オールを握ったこともない素人が揃って才能の塊で、いきなり強豪校を打ち破るという内容だったら鼻白らむところだけれど、最初はまともに漕ぐこともできないレベルから始まる。負けて悔しさを覚え、死ぬほど練習。オーバーワークがたたり、悦子は腰を壊し医者からドクターストップをかけられる。それでも「全国大会へ出たい」という思いから無理を押して乗艇するも、県大会決勝で敗れてしまう。

 インターハイ出場を懸けた県大会決勝、ギリギリで敗れた筆者にとって、ストーリーだけで泣けてくる。出演者の演技に問題があろうとも、台詞が寒々しかろうとも、映像が地味だろうとも、その他諸々に難があろうとも、そんなことは些事だ。いや、本来映画はそういう部分を楽しむものだけれど、美化された過去が強制的に「これは最高の映画!」と認識させる。

 別に部活でなくとも、何かに熱中したことのある人間なら1本は「他の誰が何と言おうが最高の映画だ」と言える作品があるはずだ。
 全国大会などの華やかな舞台に立てるのは一握りだけ。大多数は凡夫凡婦。無才が努力をしたところで努力した天才に敵う訳がない。おそらくほとんどの人間はそのことを自覚しているのではないか。不毛と言えば不毛だ。今風に言えば「コスパが悪い」。
 だが、自分を騙す言い訳や、勝ち目のない戦いから逃げる術に長けてしまった大人の心を強く揺さぶる。本作は愚直だった過去の自分が「今の生き方って楽しい?」と、問い掛けてくる。その答えに窮するから、この手の映画は冷静に観ることができないのだろう。

(文/畑中雄也)

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