地底3.9kmの向こう側『ピラミッド帽子よ、さようなら』
- 『ピラミッド帽子よ、さようなら (復刻版理論社の大長編シリーズ)』
- 乙骨 淑子,集平, 長谷川
- 理論社
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『君の名は。』を観て、新海誠という映画監督を知り、過去の作品が気になった人もいることと思う。そのうちの一本に、2011年公開の『星を追う子ども』という映画がある。ざっと説明するなら、「地下世界"アガルタ"から来た男の子と、彼と出会った女の子、アガルタに執念を持つ教師の冒険物語」といったところだろうか。
公開当時この映画を新宿バルト9で観た後、プログラムか何かで、監督自身が着想を受けた本の存在について語っているのを読んだ。その本とは、乙骨淑子(おっこつよしこ)『ピラミッド帽子よ、さようなら』である。まずそのタイトルに惹かれ、SF児童書であることにもそそられた。映画を見てから数日と経たないうちに、私の手元にはその本があった。
それまで乙骨淑子氏について存じ上げなかったが、病弱な中で骨太な児童文学を残し、全集化されるほどの作家であった(児童文学で全集が出る人は少ないという)ことを知る。『ピラミッド帽子よ、さようなら』は、彼女が命を燃やすように病床で書き綴った話だが、残念ながら話を終えることなく51歳という若さで亡くなっており、未完となった。初版は1981年、その後絶版になったものの、名作という呼び声が高く、2010年に復刊を遂げた。
お調子者の男子中学生洋平は映像研究会所属。アガルタから来たという少女ゆきと出会い、"映研"の仲間とともに旅に出る。300ページ以上のボリュームだが、軽やかに描かれているので、主人公と同じ中学生でも読み切れるのではないかと思う。
スペースシャトルで宇宙空間まで行ける人類だが、地底にはまだ未到達である。人間が達した最深記録はたったの3.9km。いったいその先にどんな世界が広がっているのだろう。10代の自分にそっと手渡したい物語であり、この先もずっと手元に残しておきたい。そんな一冊と出会うことができた。
(文/峰典子)