もやもやレビュー

私、脱いだらすごいんです。『シーズ・オール・ザット』

シーズ・オール・ザット [DVD]
『シーズ・オール・ザット [DVD]』
フレディ・プリンツJr.,レイチェル・リー・クック,ロバート・イスコーヴ,フレディ・プリンツJr.
松竹ホームビデオ
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

ラ・ロシュフコー公爵フランソワ6世なる人物がいた。16世紀のフランス貴族でモラリストである。モラリストというのは、人間を洞察して短い文章で綴った人々のこと。当時フランスでは、彼らの言葉が流行っていたが、その中でもロシュフコーはキッツイことで有名だった。叱られている気分になるから、読みたいのに読みたくない。でも人気があったのは、本質を突くものばかりだったからだろう。

ロシュフコーは、色恋にも冷静である。「愛する人に本当のことを言われるよりも、だまされているほうがまだ幸せなときがある」と。つらい。この言葉を痛いほど思い出す映画が、『シーズ・オール・ザット』である。アメリカのハイスクールを舞台にしたラブコメなのだが、かわいいだけでは済まさない。明るく楽しい学園生活を送っているのはヒエラルキー上位だけであり、悲しいかな、日向と日陰には大差がある。

主人公は彼氏をつくることよりも絵を描くことの方が大事なギーク女子。演じるのはレイチェル・リー・クック。メガネとオーバーオール、小脇にスケッチブックを抱える姿が最強に愛おしく、キラキラと眩しい。そんな彼女の初恋の相手として登場するのは、学園で一番人気の男子である。ジミ子とハデ男の恋は一筋縄ではいかない。なぜならば彼女は「さえない女子をプロムまでに変身させられるか」という掛けのターゲットだったからだ。それに気付くときの悲しさっていったらない。いっそ、だまされたままの方が良かった、幸せだったと考える。いかにしてジミ子が変身を遂げるかは、ぜひ本編で確認してほしい。

前述のロシュフコーは「若くても美しくなければ何にもならないし、美しくても若くなければ何にもならない」とも言っている。この映画には、この言葉を身をもって示すかのような、レイチェル・リー・クックがいる。その姿を眺めるだけでも充分幸せなのだ。

(文/峰典子)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム