もやもやレビュー

このご時世にわざわざ記者になりたいという奇特な方々へ。『クライマーズ・ハイ』

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 かつて新聞記者という、珍妙な業種で糊口を凌いでいたことがある。垂直落下式バックドロップ並みに悪化する業種に就くということ自体、記者としての資質がなかったということなのだろう。当時はそんなお花畑なオツムだったゆえ原作を読んでも「派閥とか何とか、アホみたいなことを謳うバカはおるまい」とタカをくくっていた時期が、俺にもありました。過去に戻れるならフルスイングで自分をブン殴りたい。

 警察官に煙たがられるわ、社内のお偉いさんや上司が深夜に泥酔してパワハラじみた真似をするわという、素敵な職場だった。価値観が1世紀遅れていると嘲笑されるのは仕方がない。バブルはとっくに弾けて消えて、24時間働いたところで啄木ばりにじっと手を見る日々だった。

 そんな下らん体験をした現実を踏まえ、改めて観賞すると......大きな事件・事故が起きれば現場に向かう記者をはじめ誰も彼もが浮き足立つ。日本航空123便墜落事故ほどの世界規模の事案であれば、犠牲者への哀悼なんて吹き飛び、タイトルよろしく皆ハイになる。

 県警キャップ佐山の原稿は政治的な理由により原稿が印刷が間に合わず吠える。社会部記者の神沢はメンタルをやられた挙句、車に跳ねられ死亡。販売局は朝刊を定時に配達するため編集局と対立する始末。社内で事故と向き合っている人間が皆無という、酷い有様だ。
 皆、地方紙という小さなお山で派閥やら個人の嫉妬心やらガタガタ騒いで犠牲者を置き去りにしている。死者を慮っていたら取材が進まないのは理解できるけど、人としてどうよ。

 抜かれても後追いするのだから読者から文句殺到なんてこともないだろうし、売上の増減にも影響はない。そもそも1本の記事で売上が伸びる道理はない。映画の舞台となる日本航空123便墜落事故でも、これから起こるだろう大きな事件・事故でも。

 しかし、我先にと取材へと突き進む、飛び出した狩猟犬よろしく、また他社の記者を出し抜いた快感は中毒性がある。帰宅は日付が回ってから、十分とは言えない睡眠時間を強引に体力回復へつなげる日々。そりゃ頭が少々疲れ何ヶ月に1回、紙面で記者が容疑者デビューすることになるのもむべなるかな、関わり合いになりたくないけど。

 ゆえに映画自体は面白かったものの、人の生き死にで飯を食う商売に足を突っ込んだ苦い記憶が蘇る。

(文/畑中雄也)

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