おとなって面倒くさいけど、最高におもろい。『おとなのけんか』
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修羅場に遭遇したことはありますか?
終電まぎわの駅のホームでのカップルの痴話げんかのような、可愛げのあるものではありません。修羅場とは「刺し合い」です。言葉という見えないナイフで、相手の心に刃をたてる。『おとなのけんか』では、4人の紳士淑女の壮絶なバトルが勃発します。
両家のこどもたちのケンカの和解のために集まった、ペネロピ&マイケル夫妻と、アラン&ナンシー夫妻。お互いに「おとなの対応」を心がけ、にこやかな雰囲気で終わるはずだった話し合いは、ささいな行為のすれ違いから、不穏な空気を醸しだします。
「リベラルな文化人」を誇っているペネロピの正義ぶった物言い。マイケルがふるまう、そこはかとなく不味い手作りパイ。話し合いのさなか、素晴らしく最悪なタイミングで鳴るアランの携帯。そして、イライラが溜まったナンシーが、理想的なタイミングで吐き出すゲロ。「こどものケンカ」というボヤは、「おとなの見栄やエゴ」という油を注がれ、山火事のような業火へと変貌していきます。
79分という短い尺。かつ、ほぼ全てのシーンが4人のしゃべりで展開する本作。そのスピード感と共に魅力となっているのは、おとなたちがボロボロと汚い本性をさらしていく滑稽さです。最初は「まぁまぁ、みんな落ち着いて話そうよ!」と善人ぶっていた人が、最後の方には「俺は最低の人間だぜ、フハハハハッッ」という身もふたもないキャラになったりします。こんなにも上っ面をはぎ取った人たちを目の当たりにすることって、まずありません。アホみたいに面倒くさいおとなだからこそ、生まれてしまう爆笑の悲喜劇。おすすめです。
(文/伊藤匠)