第62回 『尻怪獣アスラ』
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怪獣ブームに沸く1966年の12月、「お正月おたのしみ号」と謳った『別冊少年マガジン』1967年1月1日号が発売された。同誌で連載されている水木しげる先生の『悪魔くん』は、「ビチゴン事件」の巻だった。もうタイトルからしてイヤな感じだが、養豚の糞尿を腹一杯食った怪物ビチゴンが、それらを吐いて町村をクソまみれにしながら都心を目指すという極めて汚い話だった。これで「正月をお楽しみに」というマガジン編集部もどうかしているが、下ネタが大好きな低年齢層読者(筆者は6歳)は確かに大喜びしていた。しかし、もしこれが実写化されたとしたら、アナタは正視できるだろうか。
原題は『RECTUMA』。RECTUM(直腸)の怪獣ということだが、日本版DVDを発売したアルバトロス・コアは、『尻怪獣アスラ』とネーミングした。「アス」は「尻」のスラング、つまりケツ。アルバトロスのシンプルな命名センスに脱帽だ。
冒頭、怪獣ファンに聞き覚えのあるメロディが流れてくる。巨大なイモムシが東京タワーに繭を張り、華麗な巨蛾へと羽化する名作『モスラ』(61年)。劇中で双子の妖精を演じたザ・ピーナッツが歌った『モスラの歌』に激似の曲だ。2人のアジアン女性によるニセ・ピーナッツが、「モスラ」を「アスラ」に置き換えて歌い上げる。
メキシコ旅行から帰ったウォルダーは、尻が痛くなり肛門科へ行く。うつ伏せにされ不安そうなウォルダーを察した医師が「何か楽しいことを考えろ。ディズニーランド、ジュリア・ロバーツのフェラ......」。名前出して大丈夫(汗)? 医師は今しがた肛門に入れていたゴム手袋をしたまま指を舐め、お菓子の袋にその手を突っ込みポリポリ(ゲッ)。少年の尻は清らかでカワイイと趣味を語りつつ、病因を告げる。寝ている人間をレイプするメキシコの尻食いウシガエルの粘液で前立腺が肥大したというのだ。医師は、どんな病気でも治せる日本人ワンサム・サキを紹介する。待ち合わせ場所に現れたワンサムは、開口一番「ジェニファー・ロペスはデカ尻だと思うか?」。だから大丈夫か?
ワンサムの治療室でウォルダーは、アイドルを声援する時に振るサイリュームみたいな蛍光グリーンに輝く核収縮棒を肛門に挿入される。だがウォルダーの尻は放射能により分子構造が変化してしまい、職場で屁が止まらなくなり同僚の顰蹙(ひんしゅく)を買う。さらに妻と上司の不倫現場に遭遇して踏んだり蹴ったり。上司は黒人だけに「妻の体内に突き立てられる黒い棒~♪」などと危険に歌うニセ・ピーナッツ。
翌朝、上司の家でクソまみれの妻と上司の変死体が発見される。ロス市警は、前回のヤマ(事件)で外傷性ストレス障害になり、自分をジョディ・フォスターと思い込んでいる女性刑事シポーラが職務に復帰する。堅物のコサッカ刑事が組まされ、2人はウォルダー宅を訪問する。服装も口調も『羊たちの沈黙』のクラリス捜査官に成りきっているシポーラは、ウォルダーに夫人の死亡を伝える。
やりきれないウォルダーは教会へ悪魔祓いを頼みに行くが、「見せて見せて」と3人の神父によって無理やりパンツを脱がされ屈辱を受ける。翌日、神父は3人ともクソまみれ死体で発見される。ウォルダーの尻は寝ている間に本体から分離し、恨みのある人間を勝手に殺していたのだ。教会の殺人現場に残された汚物とウォルダーから採取したDNAが完全に一致。ウォルダーは連続殺人容疑で逮捕される。
取調室で事の顛末を話すが誰も信じてくれないウォルダーは、その場でズボンとパンツを下ろし「ほら、体から離れろ。証明するんだ!」と必死にケツを振る。これを見たシポーラは呼吸を乱しパニックになる。前のヤマでいったい何があったんだ? やがてウォルダーの尻は分離して、屁を撒き散らしながら夜の市街を逃走する。
翌朝、尻は巨大化して怪獣アスラとなり、人間を肛門から吸い込みクソまみれにしては、「ブッ」と吐き出して殺していく。ウォルダーを頭から信じなかったカサックは「俺が悪かった」と尻を丸出しにし、「俺の気がすまない。さあウォルダー、俺のケツをブッてくれ。早く!」と自分のナマ尻を「パン! パン!」と平手で何度も叩く。これを見たシポーラが「オ~!」と再び発狂し、忌まわしい記憶が甦る。
ハムスターを食べては、死骸の半分を現場に残す変質者がいた。シポーラは、ハムスターを愛する自分に対する挑戦と感じた。捜査に行き詰まったシポーラは、レクター博士もどきの囚人にプロファイリングを依頼する。だが囚人はそれを断り、シポーラの面前で肛門から生きたネズミを取り出し、口に放り込んでバキバキ噛み砕いて食べてしまう。
何だかよくわからないが(笑)、カサック捨て身のセルフ・スパンキングが逆療法となり、ようやくシポーラはトラウマから吹っ切れる。一方町では怪獣アスラが「ブ~!」と屁を撒き散らしながらビルを破壊し、機動隊も歯が立たない。アスラはハリウッドを全壊させ、聖水を掛けて立ち向かうエクソシストもクソまみれ! ロスは壊滅目前だ。
困ったワンサムは「そうだ! ゴジラ、モスラ、ラドン、アントラーなどを退治した従兄のタシラ(田代?)なら!」。打倒アスラを任されたタシラは、中東の最強テロリスト・ラーディン(笑)を「アメリカのケツをブッ飛ばさないか」と言葉巧みに誘い(ウソは言ってない)連れてくる。ラーディンを乗せたミサイルが、アスラの肛門に撃ち込まれる。ラーディンはメタンガスが充満する直腸内で、クソまみれになりながら自爆テロ! 見事アスラは爆死し、ロス中にクソが飛び散る。
人々が歓喜の中、尻を失ってへこんでいるウォルダーの目前に、空から「ドサッ」と尻が落下。バラバラに散ったラーディンの尻だ。尻はめでたくウォルダーに移植される。数日後、今度はウォルダーの玉袋が分離。巨大キンタマ怪獣スクロトン(陰嚢=SCROTUM)となって町で暴れ出し「続く」。続かないよ!
(文/天野ミチヒロ)
『尻怪獣アスラ』
2004年・アメリカ・95分
監督・脚本/マーク・ピロー
出演/ビル・デブリン、ダニー・レオン、ジーン・ブラックほか
原題『RECTUMA』