第59回<怪獣ブーム50周年企画 PART-9>『キングコングの逆襲』
- 『キングコングの逆襲 [東宝DVD名作セレクション]』
- 宝田明,浜美枝,ローズ・リーズン,リンダ・ミラー,天本英世,田島義文,本多猪四郎,宝田明
- 東宝
- >> Amazon.co.jp
- >> HMV&BOOKS
●「怪獣ブーム」とは
今から51年前の1966年1月2日、記念すべきウルトラシリーズの第1作目『ウルトラQ』が放送を開始した。『鉄腕アトム』や『鉄人28号』などのアニメを見ていた子供達は、一斉に怪獣の虜となった。すでにゴジラ映画は6本を数え、前年の1965年にはガメラがデビューした。『ウルトラQ』終了後、これに拍車を掛けたのが同時期に始まった『ウルトラマン』と『マグマ大使』。見た事もない巨人が大怪獣を退治していく雄姿に、日本中の子供達のパッションがマックスで弾けた。
これに触発された東映も『キャプテンウルトラ』『ジャイアントロボ』『仮面の忍者赤影』と次々に怪獣の登場する番組を制作。大映はガメラのシリーズ化に併せて『大魔神』を発表し、日活と松竹も大手の意地を見せて参戦した。そして少年誌はこぞって怪獣特集記事を組み、怪獣関連の出版物や玩具が記録的セールスを計上した。これは「怪獣ブーム」と呼ばれる社会現象となり、『ウルトラセブン』が終了する1968年まで続いた。
ちなみに『帰ってきたウルトラマン』『仮面ライダー』が始まる1971年から1974年にかけて再ブームを起こすが、これは「第二次怪獣ブーム」(「変身ブーム」ともいう)と呼ばれ、最初のブームは「第一次怪獣ブーム」として厳密に区別されている。
◆◆◆
『キングコングの逆襲』
1967年・東宝・104分
監督/本多猪四郎
脚本/馬渕薫
出演/宝田明、浜美枝、天本英世、ローズ・リーズン、リンダ・ミラーほか
東宝は「創立35周年記念」と銘打った節目の作品に、ゴジラではなくキングコングを持ってきた。そして同時上映は、同年4月で放送を終了している『ウルトラマン』を劇場用に編集した『長篇怪獣映画ウルトラマン』。人気怪獣のレッドキングやゴモラが登場するエピソード4回分を75分に編集したものだ。ゴジラは出ないし、すでにウルトラマンは観ているし......。果たして結果は? 筆者を含む全国の子供達は、この夏休み興行に大満足した顔で映画館から出てきた。
まず『長篇怪獣映画ウルトラマン』は単なるオマケではなかった。カラーテレビの普及率が白黒テレビを上回るのは1973年で、筆者も『ウルトラマン』の本放送をモノクロで観ていたので、大きなスクリーンとカラーで大好きなウルトラマンと怪獣に再会できた喜びは大きかった。そしてメインイベントでは、脇役の電子怪獣メカニコングと原始恐竜ゴロザウルスが、主役のキングコングを食ってしまうほどの存在感を示した。
「あまり文明国でない小さな国」「東洋のどこかの国」と劇中で表される某国(北のアノ国?)がスポンサーとなり、マッド・サイエンティストのドクター・フー(『仮面ライダー』の死神博士役・天本英世)に、北極圏に眠るエレメントXなる世界を征服できる核物質の採掘を依頼する。某国の使者はマダム・ピラニアという女工作員で、演じるのは同年『007は二度死ぬ』に出演したボンドガールの浜美枝。ちなみにドクター・フーの部下に、ウルトラマンに変身するハヤタ隊員役の黒部進がヒゲを生やして加わっているが、子供はこういうのを見つけて複雑な気分になるのだ(笑)。
ドクター・フーは、国連のネルソン司令官が開発中だったキングコングを模したロボットの設計図を盗み出し、勝手に完成させてメカニコングと名付ける。だが遠隔操作で地中を掘っていたメカニコングは、エレメントXの強力な磁気で故障してしまう。
その頃、国連の潜水艦エクスプロアー号に乗艦するネルソン(ローズ・リーズン)、自衛官の野村(宝田明)、看護士スーザン(リンダ・ミラー)の3人は、南洋のモンド島で全長35メートルの恐竜ゴロザウルスと身長20メートルのキングコングの死闘に遭遇する。キングコングはスーザンを気に入り、お人形さんのように掴んで喜ぶ。そんな変態ゴリラにイラついたゴロザウルスとキングコングが激突! 一進一退の攻防の末、キングコングは足に噛み付いたゴロザウルスの顎を怪力でこじ開け、そのまま「メキメキ」と引き裂いてしまう。ブクブクと泡を吹いて絶命するゴロザウルス。ついでに全長85メートルの大海蛇も現れるが、同じくキングコングに口を裂かれてしまう。
生物感溢れるリアルな皮膚や造形にファンも多いゴロザウルスとの対決シーンは、最初の『キング・コング』(33年)の対ティラノサウルス戦を再現したもので、アメリカ側は旧作のような流血戦を要求したが、子供に血を見せることを嫌う円谷英二は、泡を吹かせて信念を貫いた。キングコングのスーツアクターは、歴代ゴジラを演じた中島春雄。『キングコング対ゴジラ』(62年)では、キングコングに入っていた広瀬正一に「それじゃあ人間だよ」とダメ出しし、本作では動物園に通ってゴリラの動きを研究し手本を示した。
ドクター・フーはモンド島へ行き麻酔弾でキングコング捕獲し、「わしの命令通りに動くんだ」と催眠ランプで操りエレメントXを掘らせる。この映画はモンド島民以外の全員が国籍に関係なく日本語を話すアバウトさだが、怪獣にまで通じている(笑)。だがキングコングの催眠効果が予想外に早く解け、脱走して北極から東京まで泳いで行ってしまう(なぜ東京に?)。ドクター・フーは船にメカニコング2号を積み、キングコングを追う。夜の東京港にメカニコングが現れるが、ここ台本の第1稿では、「競技前の選手のような膝の屈伸運動をしてから、見送る乗員達に一礼をする。どっと沸く乗員達」と書かれている。このシーンがNGでなかったら、観客は違う意味でどっと沸いていたであろう。
ここからがクライマックス。芝の増上寺に現れたキングコングに続いて、ビルをぶち壊してメカニコングが登場! この映画の世界観にゴジラは存在しない。ゆえに巨大ゴリラと巨大ロボットの東京襲来は天下の一大事。メカニコングを見た瞬間に民衆と一緒になって腰を抜かす自衛隊員達の情けなさは一見笑えるが、実はリアルな描写でもある。
スーザン「逃げてコング。戦っちゃダメ。あれは生き物じゃないの。勝てないわ」。だがキングコングは野性の勘を発揮して善戦。戦況互角と見たドクター・フーはメカニコングにスーザンを捕まえさせ、東京タワーに登らせる。しかしキングコングは木登りの名人。すぐに追い付かれ、足を引っ張られたメカニコングは思わず手を離す。悲鳴を上げて落下するスーザンをキングコングがナイスキャッチ。
その頃、騒ぎを大きくするドクター・フーを見限ったマダム・ピラニアが、船内のメカニコング制御盤の配線を抜いてしまい射殺される。メカニコングは突如コントロールを失い、掴まっていた先端のアンテナが折れ、333メートル下に落ちていく。それを「ありゃ~」と目で追うコングが何だかカワイイ。メカニコングは「バッカーン!」と地面に叩き付けられ、頭や胴体・手足がバラバラになって部品を周囲に撒き散らす。
ドクター・フーやスーザンは、4月から放送されていた連続物の日米合作アニメ『キングコング』(東映動画が参加)を踏襲した同名キャラで、メカニコングもアニメ版のロボット・コングを実写用にアレンジしたものだ。なおメカニコングは、のちにゴジラの宿敵となる人気ロボット怪獣メカゴジラのヒントになった事は言うまでもない。
(写真・文/天野ミチヒロ)