連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第58回 『ゾンビはニュースキャスター』

『ゾンビはニュースキャスター』
原題『DEAD MEN DON’T DIE』
1990年・米・95分
監督・脚本/マルコム・マーモースタイン
出演/エリオット・グールド、メリッサ・アンダーソンほか

 ゾンビを題材にした映画は1冊の本ができるほど多く制作されているが、これは比喩ではなく、『ゾンビ映画大事典』(伊藤美和著・洋泉社)なるゾンビ映画マニアのバイブル本が存在する。このコラムでゾンビ映画を取り上げる際、たびたび伊藤先生のレビューを引用させていただくのだが、今回の作品については「この題名、この内容、誰が観たいと思うだろうか」。「95分は長すぎる。30分で充分。もちろん、それでも観たくない」と散々だ(笑)。そう、わざわざビデオを見つけて観なくてもよい。これを読めば充分だ。


 小さなテレビ局のニュース番組を担当する看板キャスターのバリイ・バロン(エリオット・グールド)。ある日バリイは局の駐車場で、台車に積んだ段ボール箱を倉庫部屋に運び込む怪しい3人組を見かける。スクープのネタになるかもしれないと踏んだバリイは部屋に忍び込み、段ボール箱の中から麻薬を発見する。だが追加の荷を運ぶため部屋に戻ってきた3人組と鉢合わせし、駐車場で射殺される。

 しばらくしてバリイのアシスタントを務める三流キャスターのドロシー・ネイル(メリッサ・アンダーソン)が、駐車場で死んでいるバリイを発見。ドロシーは警察へ通報ついでに、事務所へテレビカメラを取りに行く。その間、清掃のオバサンが変わり果てたバリイを見つけて涙を流すが、「でもチャンスだわ」と台車に死体を乗せて清掃控え室に運び込む。オバサンがロッカーを横にスライドさせると、なんと壁の裏にはオバサンの隠し部屋が。ハイチ出身なのかオバサンはブードゥー教オタクで、マニュアル本を見ながらの死体蘇生術が始まる。バリイはオバサンの素人呪術で見事に蘇り、しっかりセットされていた髪の毛はなぜかチリチリで、顔は血の気を失っている。自分でやっておいてビックリのオバサンは「生きてる?」と声を掛け、バリイの手首で脈をとり「よかった。死んでる」(笑)。

 その頃「ここで事件は起きました」と撮影しながら現場に戻ってきたドロシーだが、死体は消えている。そこへ通報を受けたベテラン刑事と若手刑事のペネローズが到着し、全く笑えない2人のギャグが交わされ、ドジ刑事のペネローズが残される。やがて行方不明のバリイがスタジオに現れ、キャスター席に着く。ディレクターのキューが出ると、スタジオ内をポカーンと見渡すバリイに、しつこく出るキュー。バリイも真似して人指し指でキュー。もちろん、その様子は放送されている。バリイは上手く口が利けなくなっているので、オバサンがトランシーバーの役目をする呪術用の人形(意味不明)で、セットの陰から「こんばんは、バリイ・バロンです」と原稿を読んで伝達し、なんとか挨拶させる。だが間違ってドロシーの原稿まで読んでしまい、バリイは「こんばんは、ドロシー・ナイルです」。

 その頃社長室では、社長が愛人を膝に抱きながら「さて、うちの番組を見るか」とテレビをつけたらビックリ仰天。画面では、チリチリ頭で顔面蒼白なバリイが変なトークをしているではないか。オバサンは原稿をめくる際に誤って床に落とし、「クソ! 原稿が落ちてしまったよ!」。するとバリイも、「クソ! 原稿が落ちてしまったよ!」。さらに有名な女優を紹介する時には、「あの女はふしだらなんだ」というオバサンの独り言まで繰り返す。ドロシーはバリイの横で青ざめ、「生放送だぜ!」とディレクターは頭を抱える。

 その頃、バーで飲んでいる犯人達が「新しいニュースキャスターを見ようぜ」とテレビをつけると、画面にバリイが出たので「ブーッ」と全員ビールを噴き出す。慌てて3人組は局に戻り、再びバリイをハチの巣にする。ペネローズ刑事は死んでいるバリイを発見し、ドロシー達を連れて現場に戻ると、またしても死体がない。歩いているバリイを見かけてパニックになった組織の1人がバリイを撃とうとするが、その銃を取られて返り討ちに。その死体を発見したドロシーとペネローズ刑事。ドロシーはテレビカメラを取りに事務所へ、ペネローズ刑事は上司に報告の電話。その間にまたしても死体は消えている。その死体もオバサンにゾンビにされ、それを見つけた仲間達も......と増えていくゾンビ。このシーンは何度も繰り返されるのだが、全く面白くないのでアクビが出る。『ゾンビ映画大事典』では「同じギャグの使い回しは、どう考えても時間の無駄」とバッサリ(ごもっとも)。

 ドロシーとペネローズ刑事が社長に事件の報告をしていると、社長室に「怪物だ! アレックス(社長の名)!」と一味のボスが駆け込んでくる。なぜ麻薬取引が放送局内で行われていたのか。黒幕は社長だったのだ。バリイ達と麻薬組織のカーチェイスの果てに、社長とボスは壁に激突して死ぬ。
 翌朝、バリイは朝のニュースで麻薬の一件をめでたく独占スクープで伝える。なぜかペネローズ刑事は放送局の副社長、オバサンは社長に就任。元社長とボスもゾンビにされ、オバサンの召し使いとして働かされる(元来、ゾンビは奴隷として作られた)。バリイの「これがニュースだ」で完。


 うん、30分で充分だ(笑)。ゾンビ・キャスターを演じたエリオット・グールドは、『遠すぎた橋』(77年)のスタウト大佐役や『ロング・グッドバイ』(73年)のフィリップ・マーロウ役、『フレンズ』シリーズのジャック・ゲラー役として知られる。ちなみに元妻は米国エンタメ界の超大物バーブラ・ストライサンド! そしてメリッサ・アンダーソンとクレジットされているドロシー役は、『大草原の小さな家』の長女役でお馴染みのメリッサ・スー・アンダーソンと同一人物。彼女の可憐さだけが、この作品の見所だった。

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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