連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第54回 『新・鳥』

『新・鳥』
1993年・ユニバーサル(劇場未公開)・86分
監督/アラン・スミシー(リック・ローゼンタール)
脚本/ケン・フェート、ジム・フェート、ロバート・エイセル
出演/ブラッド・ジョンソン、チェルシー・フィールド、ティッピ・ヘドレンほか
原題『THE BIRDSⅡ:LAND’S END』

 前回同様、酉年つながりで『新・鳥』を紹介しよう。この作品はヒッチコックの『鳥』と同じユニバーサル製作による正統な続編で、存在があまり知られていないのは、米国ケーブルテレビ用に製作された劇場未公開作品で、日本ではDVD化されなかったためか。ちなみに「新鳥」で検索すると、「鳥新」が出てくるのでご注意を。

 監督はアラン・スミシー。だが、そんな人物は実在していない。アメリカでは、製作者などの口出しにより自分の描いた作品にならなかった場合、監督は全米監督協会に申請して自分の名を外し「アラン・スミシー」の名義がクレジットされる慣習があるのだ。他には『ハートに火をつけて』のデニス・ホッパー、『デューン スーパープレミアム 砂の惑星 特別篇』のデヴィッド・リンチなどがこれを行使している。『新・鳥』本来の監督リック・ローゼンタールは、作品の出来に納得しなかったようだ。

 確かに『新・鳥』には、ネット上で「駄作」「金返せ」といった酷評が散見する。しかしこの作品、そんなに悪くない。テレビムービーとして考えれば、充分に及第点。適度な残酷描写と緊張感、ストーリー展開もテンポよくて飽きさせない。『ジョーズ』と並ぶ動物パニック映画の最高峰である『鳥』と比べて評価するのはナンセンスだろう。


 高校の生物教師テッドとメイの夫婦、ジルとジョアンナの小学生姉妹、大型犬スカウトの一家は、離島の借家で夏季休暇を過ごす。舞台は前作と同じカリフォルニアにあるガル島だが、一家は30年前の事件を知らない。メイは港にある写真家フランク・アーヴィングの事務所でアルバイトに就く。

 テッドは、まるで映画のテーマを暗示するような論文「生物群集における相互作用」を執筆中、気分転換に街灯の笠をペンキで塗り始める。そこへ1羽のカモメが襲撃し、脚立から落下するテッド。そして姉妹が浜で遊んでいるところへ、行方不明になっていた水質調査員の両目がない死体が漂着する。テッドは浜に集まった町長や島民らに「鳥の仕業だ」と主張するが誰も信じない。この「目なし死体」は前作からの継承で、スピルバーグは『ジョーズ』でオマージュしている。

 翌日、テッドが雑貨屋で買い物をすると、女主人のヘレンは旧知の水質調査員が変死して肩を落とし、テッド同様に異変を感じている。このヘレン役の女優は、老齢ながら妙に美人だ。それもそのはず、元モデルにして『鳥』のヒロイン、ティッピ・ヘドレンだ。ヘドレンと言えばヒッチコックに見出され『鳥』『マーニー』の主役に抜擢されたシンデレラガールだが、昨年の11月にこんなニュースが話題になった。ヘドレンが自伝『TIPPI:A MEMOIR』の中で、ヒッチコックからセクハラや脅迫を受けていた過去を暴露したのだ。専属契約を結んだ直後から、ヒッチコックは車中で覆い被さるようにキスを強要し、セットの隅で体を触り、共演男優が彼女と会話しているだけで激怒したという。

 一方、劇中では助平カメラマンのアーヴィングが、メイの着任早々、仕事中の彼女を撮影しながら「魅力的だ。ご主人はこんなこと言わないだろ?」と口説いている。暗くなってから飲酒運転で帰宅したメイ(島では黙認?)。飲み相手がアーヴィングと知り、険悪になる夫婦。食卓では腹を空かせた子供達が、真顔でそれを観戦中(汗)。

 翌晩、子供達の寝室の窓から鳥の群れが侵入し、もはや鳥の悪意を確信するテッド。灯台守のカール爺さんは、島の各所で油にまみれた鳥の死骸を見つけ、鳥が軍隊のように集結している様子を「自然を傷つけた人間が今、逆襲を受けようとしている。30年前にも島の西海岸で3日間に及び鳥の襲撃事件があった」と話す。2人に警告された町長は「襲う鳥がいて、海は汚染されているなんて公表できるか?」。動物パニック映画定番の対立だ。

 幼いジョアンナを鳥の襲撃から身を挺して守ったスカウト、寂しい一人暮らしの老人カールと、立て続けに嬲り殺した鳥軍団は、ついに人で賑わう港町で総攻撃を開始! 逃げ惑い、われ先とボートやフェリーに飛び乗ろうとする人間達。実際の鳥に合成特撮を使って群れを表現するところは前作と一緒だが、技術は格段に進歩している。

 パニックで船の給油ホースが抜け、油がドボドボと海へ注がれる。発煙筒で撃たれた鳥が燃えながら海へ落ちると、文字通り火の海となり、海に入って避難していた町長は悲鳴を上げる。火はガソリンタンクに引火して大爆発! 吹き飛ぶ人間! テッド一家はボートを引っくり返し、海に浸かって難が去るのを待つ。静かになり、船底に上った一家が見た光景は、本土へ向かって飛んで行く鳥軍団だった......。


 悲観的なラストは前作と同じで、ストーリーに目新しさはないため、続編というよりリメイクに近い感じ。大きな違いは、人を襲う理由が不明ゆえ観客に言い知れぬ恐怖を与えた前作に対し、油まみれの鳥の死骸を見せ「環境汚染に対する逆襲」を示唆している点だ。明確な理由付け(分析する科学者不在で、一老人が言っているだけだが)により不気味さは薄れるが、環境問題が深刻化してきた時代に合わせて、このパターンもアリだろう。

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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