連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第51回 『怪獣王ゴジラ』

Godzilla: King of the Monsters
『Godzilla: King of the Monsters』
Classic Media
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『GODZILLA, KING OF THE MONSTERS!』
(日本公開題『怪獣王ゴジラ』)
1956年・アメリカ(1957年・日本)
監督/テリー・モース、本多猪四郎
脚本/本多猪四郎、村田武雄
出演/レイモンド・バー、河内桃子、宝田明、志村喬、平田昭彦ほか

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 毎年11月3日は「文化の日」。これにちなんで同日は「まんがの日」、「レコードの日」、「文具の日」なんて記念日も制定されている。しかし待て! 大事なことを忘れてやしないか? 1954年11月3日......それは『ゴジラ』の公開日だ。私は11月3日を「ゴジラの日」と勝手に制定し、毎年『ゴジラ』を観ながら1人祝杯を挙げているのだ。

 ということで今回は『ゴジラ』......ではなく、ちょっと捻って「海外版ゴジラ」。ただし海外版といってもエメリッヒ監督のヤツでも渡辺謙のヤツでもなく、初代『ゴジラ』の米国公開版だ。というのも、これが単なる英語吹替え作品ではなく、『ゴジラ』を買い取ったハリウッドのバイヤーが、ストーリーを「アメリカ人記者が、東京でゴジラの襲来に遭遇した」というアメリカ人視点の設定にアレンジした珍品なのだ。主役は2年後に人気テレビ番組『弁護士ペリー・メイスン』でブレイクするレイモンド・バー(ゲイ)。彼と日系人エキストラで新撮カットを撮り、それを無理やりオリジナル・フィルムに挿入したのである。

 完成した再編集版ゴジラは、日本映画初のメジャー配給網により『GODZILLA, KING OF THE MONSTERS!』というタイトルで1956年に全米公開され大ヒット。世界50カ国で公開され、スティーヴン・スピルバーグなどの著名なクリエイターらにも影響を与えた。内容を紹介する前に、日本版『ゴジラ』のストーリーをおさらいしておこう。


 日本近海で船舶が燃え上がる謎の海難事故が続発する。それは水爆実験の影響で蘇ったジュラ紀の巨大生物ゴジラの仕業だった。ゴジラは2度に渡り東京を襲撃し、自衛隊の近代兵器も全く通用せず、放射能を含有する白熱光を吐き散らし、都心を壊滅させる。

 古生物学者・山根博士(志村喬)の一人娘・恵美子(河内桃子)は、幼馴染みの天才科学者・芹沢博士(平田昭彦)が発明した水中酸素破壊装置オキシジェン・デストロイヤーならゴジラを倒せると考え、恋人の尾形(宝田明)と共に使用を懇願する。自分の発明が兵器利用される懸念から、それを頑なに拒む芹沢。だがテレビから流れる被災の惨状にショックを覚え、ダメ押しに数百人もの女子高生たちが歌う平和への祈りにグッときた芹沢は、ようやく2人の説得に応じる。そしてオキシジェン・デストロイヤーは見事ゴジラを抹殺し、それを見届けた芹沢は自らの命を絶つ。


 名作だ(涙)。これを踏まえて米国版を紹介してみよう。


 冒頭、いきなり焼け野原の東京が映し出されて面食らう。日本版でゴジラに破壊尽くされた終盤のシーンだ。ガレキの中から服がボロボロに破れた白人(レイモンド・バー)が這い出てきて救護所に運ばれる。カイロに行く途中で芹沢博士に会うため東京に寄った世界通信社の特派員スティーブ・マーチンだと、自らをナレーションで説明する。マーチンは山根博士とも旧知で、救護所でボランティアをしている恵美子(河内桃子と同じような服を着て、常に後ろを向いている米国女優)に出会う。

 ここから、事件前に戻ったマーチンの回想シーンが始まる。羽田空港に着いたマーチンは、警官(日系人)にたどたどしい日本語で話しかけられ、なぜかそのまま海上保安庁へ連れて行かれる。そこで岩永(日系人)という職員から、原因不明の海難事故を伝えられたマーチンは、記者として日本で起きた謎の事故を本国に報告する。

 次の記者会見シーンでは、ゴジラ退治の対策を尋ねられた山根博士が、「それは無理です。水爆の洗礼を受けながらも、なおかつ生命を保っているゴジラを、何をもって」。......え? まだゴジラは出ていないぞ(笑)。ここは編集の順序を間違えたのだろう。

 山根博士が調査する怪物伝説のある大戸島に来たマーチンと岩永。岩永がゴジラらしき怪獣を目撃した島民に「何を見たんだ」と高圧的な態度で聴くと、「カイブツです。おそろしいカイブツです。またきますよ。わしは、カズコのところに、いかなきゃあならん」とメッチャ片言の日本語(笑)。また、両衿に大きく「ルシイルアンダソン」と外国人観光客向けTシャツみたいな謎の片仮名が書かれた羽織を着て、クソ真面目な顔して立っているオヤジにも笑える。

 さて、最初にゴジラが品川で暴れるシーンは11分が5分に短縮され(泣)、2度目の襲撃でマーチンのいる建物がゴジラに潰され冒頭のシーンに戻る。負傷したマーチンは恵美子から芹沢博士の研究を聞かされ、あとの展開は日本版と一緒。だが作品のテーマが集約されたラストの山根博士の重要な台詞「あのゴジラが最後の1匹だとは思えない。もし水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類が、また世界のどこかへ現れてくるかもしれない」は丸ごとカットされ、マーチンの一言「こうして世界は救われた」で完。


 コレを『ゴジラ』と思い込んできた外国人達は(まあ、ゴジラには違いないけど)、80年代からビデオ、LD、DVDと順次リリースされていった日本版『ゴジラ』のソフト、あるいは2005年にアメリカで初上映された日本版『ゴジラ』で初めてオリジナルを観て、改めて強烈な反核テーマを知ったという。当時の日本映画の海外契約では、フィルムの編集は煮て食おうが焼いて食おうが、買った者の自由だった。だが、それは戦後10年しか経っていない当時の日米関係からすれば仕方のないこと。アメリカで公開するに当たり、日本に原爆を落としてなお水爆実験を続けるアメリカ批判の部分は、ぼやかさざるを得なかったのだ。

 なお、この海外版に日本語字幕を付けて、逆輸入という形で1957年に日本公開された『怪獣王ゴジラ』のフィルムは長年行方不明になっていたのだが、最近発見されて現在隔週で発行されている『ゴジラ全映画DVDコレクターズBOX』(講談社)の2017年1月24日発売号で、ようやく初ソフト化が実現する。フィルムに焼き込まれた古い表記の字幕が味わい深く、放射能と水爆に関する言及が、過去に日本で発売された『GODZILLA, KING OF THE MONSTERS!』のDVDの字幕より若干多いような気がする。比べてみては?

(文/天野ミチヒロ)

『ゴジラ全映画DVDコレクターズBOX』公式サイト:http://ent.kodansha.co.jp/godzilla/

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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