第47回 『禁断の不倫殺人鬼 虐殺仮面』
『禁断の不倫殺人鬼 虐殺仮面』
原題『TRUTH OR DARE? A CRITICAL MADNESS』
1986年・アメリカ・86分
監督・脚本/ティム・リッター
出演/ジョン・ブレース、マリー・ファネロほか
2016年の上半期はベッキーと川谷絵音に始まり、宮崎謙介元衆議院議員、桂文枝、石井竜也、乙武洋匡、ファンキー加藤と、食傷気味になるほどゲス不倫騒動が続いた。これだけ起きて血を見なかったのは不幸中の幸いだが、あまり調子に乗っていると「アイツ」がやってくるぞ......。
頭脳明晰でマジメかつハンサムなマイクは、建築士として大成功を収め、美しい妻とプール付きの豪邸で幸せに暮らしていた。ある日、マイクが家に忘れた設計図を取りに戻ると、妻シャーロンと友人ジェイクのピストン運動中にバッタリ遭遇(ここは矢口真里)。「オーマイガ!」と家を飛び出したマイクは仕事を放り出し、海を眺めながら思い出す。「毎日が退屈」と妻がジェイクの経営する会社で働きたがっていたことや、怪しい間違い電話を。マイクは車の中で拳銃自殺を試みるができない。するとマイクの記憶は幼年時まで遡る。
マイク少年は「トゥルース・オア・デア」で遊んでいる。それはイギリス版王様ゲームと呼ばれるパーティー・ゲームで、まず質問者が「トゥルース(真実)・オア・デア(やってみる)?」と尋ねる。対象者が「トゥルース」を選べば質問者の問いに正直に答え、「デア」を選べば質問者が提示した行動を実践するのだ。誰かが「腕を切ってみて」とでも言ったのだろうか、マイクが剃刀で自分の腕を本当に切って流血し、輪になっていた子供達は「キャ~!」と悲鳴を上げて散って行く。幼児期に父親が事故死してから、自傷行為を繰り返していたマイクのトラウマが蘇ったのだ。少年時代のマイクを演じた子役は、日本でも人気のバックストリート・ボーイズのリードボーカル、A・J・マクリーン(当時8歳)で、彼自身もアル中とドラッグ中毒で2度の入院歴がある。
マイクが車を走らせていると、ソバージュヘアのミニスカギャル(80年代風表現)がヒッチハイク。そのままキャンプ場へ行き焚火を囲んでいると、女がトゥルース・オア・デアを提案する。マイクが「トゥルース」と言うと、女は意地悪く「奥さんに未練は?」。マイク「こいつ~(笑)、あるよ」などと和気あいあいにゲームは進むが、やがてエスカレートしていき、女はコルク抜きで左目を繰り抜き、マイクはナイフで右手の人指し指を切り落とす。だが女はマイクの幻覚だった。素手で舌を引っこ抜き、「トゥルース・オア・デア?」と連呼しながら1人で転げ回っているマイクを、キャンプ場の管理人が発見する。
マイクは精神病院に入院するが、13か月後に病院が満員のため退院させられる。病院を出たマイクはシャーロンの家に直行しジェイクを刺殺。運よくシャーロンは助かるが、警察に通報されマイクは精神病院へ逆戻りする。だがマイクのお遊びは止まらず、拘禁室で患者相手にトゥルース・オア・デア。老人には「オマエの腕を切り落とせるかい?」と隠し持っていた刃物で左腕を切断させ、パンクヘアの男には「頭を吹っ飛ばせるかい?」と手榴弾をくわえさせる。老人はマイクに「オマエも顔の皮を剥けよ~!」と泣き喚く。騒ぎに気付いた職員や院長達が拘禁室のドアを開けた瞬間、手榴弾をくわえた男の頭が爆発し、マイクは笑いながら顔の皮をナイフで剥がしている最中だった。
5か月後、マイクは作業場で作った銅の仮面を常に被って過ごしていた。ちょっとアイアンマンっぽいが銅なのでカッパーマンだ(河童にも似ている)。ある日、担当職員がジョークで、シャーロンの写真を額に入れてマイクにプレゼントする。これを見たマイクは発狂し(既にしてるか)、様子を見に来た若い職員の左目にグサッと鉛筆を刺して殺し、ガードマンも殴り殺す。車を奪って病院を脱走したマイクは、いきなり乳母車を押す母子を轢き殺し、バットとグローブを持った少年はチェーンソーで切断! 薬物でラリっている男やバス停で待つ客らはマシンガンで蜂の巣に! まさに虐殺仮面だ。
所轄のベテラン刑事はシャーロンの家に急ぐ。だがマイクはマシンガン、チェーンソー、ヌンチャク、牛刀などを抱え、既にシャーロン宅に侵入していた。マイクは待ち伏せしていた院長から3発の銃弾をブチ込まれるが、執念で院長を返り討ちにし、浮気妻を殺して本懐を遂げる。ここでようやく刑事が到着し、瀕死のマイクに「トゥルース・オア・デア? 銃を捨てられるかな?」。これが見事に成功し、マイクは三たび精神病院送りとなる。
監督はビデオジャケットではイール・ウィルソンとなっているが、実質の監督は脚本を書いたティム・リッターで、なんと脚本作成時は17歳で撮影時は18歳! 妄想力たくましい恐るべき高校生だ。作品はけっして傑作とは言えないが、そこらのC級ホラーに比べれば鋭いセンスが感じられ、少なくとも前回紹介した『ゲロゾイド』よりは数段出来がよい(笑)。とにかくだ、ゲス不倫には気を付けよう。あなたの伴侶や恋人が「トゥルース・オア・デア?」と言ってきたら要注意!
(文/天野ミチヒロ)